無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

『何考えてるんだこいつ…』

寄り道というからには本道がある訳で、今の場合はキプトラの歌詞の話だ。やはりここも気まぐれに戯れにおしとやかに(?)本道に戻ってみる事にしよう。

驚くべきなのは、今まで見てきたようにこれでもかと精緻かつ複雑極まりない音韻構造が与えられていながら、言ってる事はほぼ宇多田さんの独り言に等しい事である。普通、ここまで歌詞を巧んでしまうと言いたい事を一貫して描写するなんざほぼ無理な話だが、キプトラの歌詞は実にテーマがハッキリしていて読みやすい。ところどころ聞き取りにくいが。まぁそのうちの幾つかは今まで見てきた通り熊と、じゃないや態とのものもあるからね。

言いたい事が一貫しているのは、こんな風に歌詞を並べるだけでも見てとれるだろう。

『どうでもいいって顔しながら
 ずっとずっと祈っていた』
『ほんとは誰よりハングリー
 気持ちの乱れ隠しても』
『クールなポーズ決めながら
 実を言うと戦ってた』

これらの歌詞が、いずれも「外面は平静を装っているが、内面はえらいことになっている」という意味である事に異論を挟む余地はないだろう。一言で言ってしまえば「宇多田ヒカルはむっつりスケベです」という事だ。

もう一通り揃えてみよう。

『無い物ねだり
 ちょっとやそっとで満足できない』
『挑戦者のみもらえるご褒美欲しいの』
『何度でも期待するの
 バカみたいなんかじゃない』
『ほんとは誰よりハングリー
 気持ちの乱れ隠しても』
『無い物ねだり
 もっとだもっとだ満足できない』

これらも一言で要約すると、『宇多田ヒカルは欲求不満です』という事になる。『もっと欲しい』んですな。

更にもう一通り揃えてみよう。

『I don't care about anything
 (私は何も気にしない)』
『去年より面倒くさがりになってるぞ』
『ちょっと遅刻した朝もここから頑張ろうよ』

学生時代の遅刻癖まで披瀝してしまって言いたかった事は「宇多田ヒカルはだらしないです」といった所か。

これら3つを纏めると、『宇多田ヒカルはむっつりスケベで欲求不満でだらしがないです。』となる。一体何に関してだらしないのか小一時間問い詰めたいところだがそれは自粛するとして、これだけ自分を貶めておいて結局何が言いたかったかといえば『だからKeep tryin'』なのだ。

自分は周囲から飄々としていて何も気にしてないように思われてるけど、優等生で望ましいものは既に総て手に入れているように誤解されてるけど、その実感情の起伏は激しくてまだまだ足りないものも一杯あって、隠してるけどダメな所も沢山あるんだ、だからまだまだ頑張る事、やってみたい事が山ほど待ってる、だからKeep Tryin'と歌っている訳だ。

これだけ独り語りに終始する歌詞でありながら最後に老若男女に呼び掛けて説得力があるのは、正直に吐露しているからである。誰しも自分の本音を見極めるのは難しいし、それを人に向かって素直に告白するのは更に難しい。ヒカルは堂々とそれをやっている。堂々と胸を張って「胸を張れない私がたくさん居る」と歌うから皆の共感が得られるのだ。誰しも思っているけれどとても口に出さない、出せない事を言う勇気が、やはり希有なのである。

というわけで改めて歌詞の内容をまとめなおしてみると、「宇多田ヒカルはむっつりスケベで欲求不満でだらしがないので、いろいろやってみてます」という感じになるかな。いやはや今夜は眠れそうにない…(何故