無意識日記々

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返り咲いた心の花の話

ULTRA BLUEアルバムを統括する立場のThis Is Loveについて、肝心な一点に触れていなかったから言及しておこう。

この歌は何がしたいか、何が言いたいか。それについては先述の通りサビにくっきり書いてある。ひとつは『冷たい言葉と暖かいキスをあげるよ』、もうひとつが『咲かせてあげたいの 運命の花を、あてどないソウルの花を』だ。

『花』と言った時に、ULTRA BLUEにおいて他に何を思い浮かべるか。それは、Making Loveの『根暗なマイ・ハートに一つ花が咲いた』の『花』だ。そして、両方とも、それぞれ音韻に合わせてソウル(魂)とハートになっているけれど、つまりは『心に花が咲く』事を歌っている。

作詞者の心境としては、Making Loveで咲いた自分の心の花を今度はThis Is Loveにおいて他者にそれを齎そう、というスタンスに遷移している訳だ。This Is LoveとMaking LoveがLoveを共通に持つ事は偶然ではない。Making Loveで生まれたPositiveなマインドでもって、誰かの願いが叶うころやBe My LastやWINGSといった他の曲の暗い面・絶望面に寄り添っていこう、というのがThis Is Loveの立ち位置なのである。

繋げて書けばわかりやすい。

『根暗なマイ・ハートに一つ花が咲いた』
『咲かせてあげたいの 運命の花を、あてどないソウルの花を』


この、「他者にはたらきかけようという意志」が見えるのがThis Is Loveの特徴である。

誰願叶ではあなたへと続くドアが消え、Be My Lastでは手を繋げず、WINGSでは抱きしめたいのに抱き付けず、言いたい事も言えない。それが、This Is Loveでは『冷たい言葉と暖かいキスをあげるよ』『後ろからそっと抱きつく』『私からそっと抱いてみたの』『咲かせてあげたいの』と何ともまぁ積極的なこと。逡巡する暇もなく既にしてしまっている。『閉ざされてた扉開ける呪文今度こそあなたに聞こえるといいな』まで来ると最早根拠無き希望的観測である。

ただ、この積極性には留意が必要だ。何故ここまでPositiveになれるかという種明かしが、この歌ではがっつり歌われている。

『痛めつけなくてもこの身はいつか滅びるものだから 甘えてなんぼ』

こうである。いつか死ぬんだから、という絶対虚無に立脚した積極性なのだ。これは宇多田ひかるさん心の俳句『雪だるま いっしょにつくろう 溶けるけど』そのままである。This Is Loveで他者にはたらきかけるのはまさに『いっしょにつくろう』だし、『いつか滅びる』は『溶けるけど』だ。なんだかんだで、紆余曲折しながら本来の自身のアイデンティティたる哲学に返り咲いた事を歌ったのがこの曲This Is Loveなのである。