無意識日記々

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宇野維正「1998年の宇多田ヒカル」

宇野さんの「1998年の宇多田ヒカル」、もう読んだ人も居ればまだな人も居るだろうか。新書サイズでページ数も少なめだし720円だかのお手頃価格なのでさらっと買って読んでしまえる感じだ。

プロの書く文章だけあって読み易さが半端ではない。普段この日記の時にまわりくどく時に読者を放置する(そういうのの方が評判よかったりするんだけど)文体に慣れている人なら難なく読みこなせるだろう。

ヒカルに対して何か新しい事実が発覚する、というタイプの書物ではなく、過去の事実を踏まえた上で著者なりの論考・考察を展開しよう、という趣旨の書物なので、ここの読者だと「何だ、知っている事ばかりじゃないのさ。」となるのは必須なのでそれは注意かもわからない。

しかし、その点でいえば、個人的には結構興味深く読ませてもらえた。なぜなら、ヒカルだけでなく、椎名林檎aiko浜崎あゆみの話もふんだんに(大体均等に)盛り込まれているからだ。違う方向から見れば、椎名林檎のファンからすれば大した新事実は載っていないし、aikoについてもあゆについてもそうだろう。しかし、私は別に彼女たちのファンでも何でもないので知らない事を沢山知れてとてもよかった。椎名林檎の(バック・)バンドの名前を年代順に羅列せよって言われたって出来ないものね。

そういう点で読み直せば、ここを読むような事のやい人たちにとっては、ヒカルについても「へぇ、そうなんだ、知らなかった」となる事実が満載なのだろうと想像する。読者は読者としての立ち位置を把握すれば楽しい読者ライフを満喫できるというものだ。

既知な事実が主であるとはいえ資料価値も高い。無責任なWebとは違い、どれもこれもしっかりと情報の出典・出所を明記してある為信憑性などに猜疑心を抱く必要もない。こちらも手軽に開いてヒカルの言葉や歴史などを引用する事が出来そうで大変麗しい。書籍化の大きな利点であろう。

という訳で基本的な印象としては、金銭的に余裕がないというのでもなければファンとしては「買い」じゃないだろうか。持っていて損はない、と言い換えてもいい。根も葉もない噂で彩られたゴシップ本でもないし、何より、元ロッキンオンの人だけあって音楽業界の事はよく御存知だ。ただ、先程少し触れたように内容としてはタイトルに偽りとまでは言わないがヒカルの話は書籍の中でも4分の1、5分の1といった感じなのでその点はしっかりと踏まえてうただきたい。

で。著者が力を入れている論考と考察の部分についてだがそこらへんはまた機会があれば取り上げる事に致しますよっという事でひとつ。