無意識日記々

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『初恋』の歌詞構成2

Aメロで"一般論"を歌い人々からの表面的な共感を得つつ、『だけど』の一言で"特殊性"を語るBメロに推移する。この構成が本当にわかりやすい。そこに繋げる為に過去形の『ずっと思っていた』を配しているあたりも心憎い。『だけど』の出現が唐突でなく必然となっている。歌詞に『ずっと』が登場するの何回目だろうね。今はそれはいいんだけど。

「歌のリズム」というものがある。言葉にこめられた思いをどういう呼吸の中で読み取っていくか。これが話し言葉や書き言葉なら『人間なら誰しも当たり前に恋をするものだとずっと思っていただけど』と一息の一繋がりで言うものだから、文章全体のトーンが真っ先に「だけど」の一言に染められてしまう。しかし、歌のリズムでまず『人間なら誰しも当たり前に恋をするものだと』の部分を歌われると、その中身を噛み締める余白が生まれる。「うん、そうだね。」とか「え、そうかな?」といった感覚が生まれる時間が出来るのだ。しかしそれは聴き手の中で言語化されるにまでは至らず、言葉とメロディーは感覚から感覚への推移を生み出す事に成功する。これが歌のリズムのマジックであろう。

その流れに乗る中での『だけど』からのBメロである。落ち着いた、冷静な一般論から入って僅か3行で聴き手を歌の世界の中に引き込んでいく。その滑らかさと着実さたるや比肩し得るものが思い当たらない程だ。

切迫感を増したアレンジをバックにBメロでは『あなた』について歌い綴る。余談になるが、アルバムでは『初恋』の位置は3曲目、2曲目の『あなた』に引き続く3曲目である。『あなた』の『あなた』の残像が消えぬうちに織り重なってよく『初恋』の『あなた』。よく考えられた曲順である。

Aメロで"一般論"を歌った対比としてBメロでは"特殊"を、もっと言えば"特別"をヒカルは歌う。誰かにとっての『あなた』は他の誰でもないその人でしか有り得ないが、どの誰にとってもその掛け替えのない『あなた』が居る、ということをこのAメロとBメロの組み合わせが教えてくれる。ドラマの形は既にここに完成しているのだ。

そこからまたサビの「初恋を知る瞬間」に舞い戻る。冒頭で突如クライマックスを見せられて驚き仰け反っていた我々も、今度は少し落ち着いて、なぜそんな気持ちになったのかの経緯を知る事ができる。もうそれはBメロまるごと、『もしもあなたに出会わずにいたら誰かにいつかこんな気持ちにさせられたとは思えない』という思いを胸に高鳴る胸の音を改めて耳にするのだ。ここの歌詞は本当に無駄がない。これ以上要約する事すら憚られる程に。それが"歌のリズム"を伴って供されるのだから説得力抜群なのだ。