『娘さんのリストカット』だなんて大きく歌詞を変えているのに気がつかないとかどういう聴き方をしてたんだと言われそうだが、時と場合によるんだよっ。細かい歌い回しだって、場合によってはきっちり耳に留めてるよ。例えば『Kiss & Cry』でいえば『I just want you to hold me 恥をかいたってかまわない』の『hold me 〜♪』のメロディーを変えて歌ってくれた所はゾクッと来たのでよくよく覚えてるんだよっ。
で。もうひとつのサプライズはその『hold me 〜♪』に身悶えている時に起こったのですよ。『恥をかいたってかまわない』の次はブレイクを挟んですかさず『ちょっと傷ついて〜♪』と3番のサビに突入するのがスタジオバージョンなのだが今回のライブ初披露ではここで一旦ドラムビートだけが残ったのだ。「ん? ライブならではのストレッチをしてくるのかな??」と訝ったか訝らなかったかのタイミングで、よぉく聴き慣れた、しかし『Kiss & Cry』のものではないあのフレーズが耳に飛び込んできたのだ。
『Hit it off like this,
Hit it off like this, oh baby♪
Hit it off like this,
Hit it off like this, oh baby♪』
そう、『Can You Keep A Secret ?』の英語リフレインである(実際にはヒカルは歌わず、録音再生である)。これが響いてきた瞬間は正直何が起こっているのかさっぱりわかっていなかった。ついさっき『traveling』から『COLORS』に突入する時に『COLORS』がサビから始まったように、今度は『Kiss & Cry』から地続きで『Can You Keep A Secret ?』が始まるのか?或いはキスクラのリフレインでキャンシーを挟み込むようなサンドイッチ・セクションを放り込んできたのか?最初は全くわからなかった。結局「キスクラの後半にキャンシーの英語リフレインを組み込んだ」というのが真実だった訳だが、それにしても贅沢な事をするものだと思いましたよ。
だって、ねぇ? さっきまで『traveling』や『COLORS』が年間2位だか3位だかの国民的超有名曲だとか言っていたのに。よりによって“2001年年間売上堂々の第1位”である『Can You Keep A Secret ?』を他の曲とマッシュアップさせて使っちゃいます?? 消費しちゃいます?? 贅沢この上ないでしょ。普通のミュージシャンなら有り得ないよねぇ。
しかし宇多田ヒカルなら全然問題ない。他にいっくらでも名曲があるからね。確かにキャンシーがフルコーラスで聴けなかったのは残念だったけれど、キスクラのスペシャル・バージョンをライブで聴けた驚きと喜びがその残念さを遙かに上回ったのでOKだ。本当に思い切った事をしたものです。1つ間違えば総スカンを食らうところだったのにな。ヒカルの天才はそのセンスだけでなくその胆力にもあるんだなというところをまざまざと見せつけられた1曲(いや2曲か?)でしたとさ。