無意識日記々

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#裸婦抱く The Darkness In Your Laughter

又吉直樹のショートフィルムの特徴は機能が多層的且つ多方向的である事だ。主題の主従がわからない。ただ大方の見方としては“喜劇”、或いはコメディとかお笑いとかそういう受け取られ方をしているだろう。

これは構成でも配分時間でも説明がつかない。15分の内聴衆が笑っている時間の割合はそんなでもないのだ。だが「笑った」という体験は他の経験に較べて強力で支配的な為、どうしてもその印象が強くなってしまう。

穿った見方をすれば、笑いに隠してヒカルは「歌詞は歌詞」なんだから混同しないで欲しいともう一度強調したかったのかもしれないし、又吉直樹は絶望とユーモアの関係を生真面目に呟きたかったかもしれない。それらも総て瓶割りにもっていかれて“従”の立場に追い遣られる。結局主役は笑いとなる。

瓶割りのインパクトで前フリネタに過ぎなくなってしまった対談内容も又興味深い。「割る」が「笑い」の語源かもしれないと言いながら瓶を割ってくる流れも見事だし、又吉と彼の父のエピソードも秀逸だ。最後父が又吉に嫉妬する場面は「闇の中の笑い」ならぬ「笑いの中の闇」と言いたくなる不思議なオチである。あそこで又吉が傷ついていたら悲劇になっていた所を幼少の彼がそれを誇らしく思いヒカルが今それを聴いて大袈裟に大笑いする事で喜劇的なエピソードとして着地している。正直かなり危うい橋を渡っていると思うが、それもまた希望と絶望の境目にあるのだろうと感じさせている。うまいもんだわ。

重層的で興味深いこのショートフィルム、円盤が発売になったらまたより詳しく分析してみたい素材です、よ。