よいなーFIRST SIGNALの新譜。スタイル的に古典的過ぎる程古典的なのにいちいちクォリティが高くて安心して聴いていられる。名盤とかではないけれどメロハー好きは必ず気に入ると言い切りたいレベルだ。
何の新味の無いサウンドでも丁寧に作ってあればそれだけで聴いていて楽しい。言い方は悪いが、人の作ったものの上に乗っかってるのは本当に楽ちんだな。
「丁寧」は結構無意識レベルでも効いてくる。聴き手が自覚的でなくても「どこがいいのかよくわかんないけどなんとなくいい」という感覚は、作り手が練りに練って作り込んで突き詰めた状態が生み出している場合が多い。
で、だ。ベテランになってくると「徹底して突き詰める」のが上手い人と「ほどほどで見切りをつける」のが上手い人に別れてくる気がしている。前者は、アイデアとしては平凡かもしれないものでも目一杯魅力を引き出してそれなりに聴かせるところまでもっていける人。後者は、いいアイデアが生まれたら変に捏ねくり回さずに素材の良さにある程度任せてしまう人。
どちらがいいとかでもなく、一長一短。さて言いたいことは。ヒカルが今どちらなんだろうという話。デビュー20年なのでベテランと言っても差し支えないし、言わなくても変じゃない、そんなお年頃。
アルバム『初恋』を聴く限り、「どちらともいえない」「どちらでもある」という過渡期も過渡期な気がする。細部まで突き詰める強さは『DEEP RIVER』などで顕著だ。一方で素材の良さで勝負したのは『This Is The One』だという印象が強い。私ゃ。
『初恋』は両方が混在している…というか、なんか区別がつきづらいんだよね。『夕凪』なんかジャムセッションの延長線上にあるようにも聞こえるし、もうこれ以上どうしようもないようにも思えるし。『残り香』なんかは素材の良さで勝負なのかと思いきや、音数が少ない割に案外編曲に隙が無く、これはこれで突き詰めた結果なのかもしれないと訝ってしまう。ちょっと判断が難しいなぁ。
瞬発力のあるアレンジと、建造物のようにしっかりカッチリしたサウンドが入れ替わり立ち替わりしているようにも思える。どうもこれは、次の新曲、次のアルバムがリリースされてそれと聴き較べないと本当の意味ではわからない気がしてきた。ふむ、そろそろ次のフェイズってことかな? 気分の問題はないだろうだけどね。