無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

あなたが生んだ孤独観

『あなたに会えてよかった

 遠い町でも頑張ってね

 新しいお部屋で君はもう making love』

『部屋』は『Making Love』もだよと教えてうただいた。持つべきものはよいフォロワー。ありがとさんだね。

この歌でも『あなた』が出てくるね。御存知の通りヒカルの使う二人称というのは中身を特定化しないように抽象化されている。歌詞を書き始める切っ掛けが親友だったり親だったり子だったりその時の恋人だったり旦那だったりしたとしても作品としての歌詞を仕上げる頃には抽象化された純粋な『あなた』になっている。だから多くの、それぞれに違う「あなた」を持つリスナーに遍く歌が響いていく。

裏を返せば、ヒカルの歌う「あなた」は抽象であって具象ではないのだから、どこまで行っても「私にとってのあなた」でしかない。二人称の相手の細かい事情や性格、出自や感情というよりは、「一人称がまずあって、それに対する二人称」という態度が貫かれている。これは初期エヴァなどにもみられる新しい世代の唯我論、セカイ系と呼ばれるものだ。ヒカルの初期の歌詞でもその色は濃く、度々“孤独”がテーマとして取り上げられている。「あなた」が「私にとってのあなた」であるならばどこまでいっても「私」の問題でしかないのだから、「私」ですら、「あなたにとっての私」でしかない。その隔絶が孤独を生み出す。

そんな孤独観、人称論を背景にしながらヒカルの歌では『部屋』という言葉が度々登場する。極端な話それは建築物であってなかなかに具象物だ。『あなた』という歌は、そのものズバリの「あなた」という二人称をタイトルに冠しながらこの『部屋』という歌詞によって急激な具象、唐突な日常感を醸し出している。次回はそこらへんの話から。