無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

組細工から香水へという流れ

ヒカルの歌詞の分類を考え眺めていると、つくづく「歌詞」というジャンルは独特の価値観と方法論が必要だなと痛感する。

音楽が基調にあるとはいえ基本は言語、言葉だ。言葉である以上受け手の記憶に訴えかけるしかないのだが、そこでどれくらいの具体性が出せるか、正確に情報が伝えられるかという視点で見始めると甚だ心許ない。長編小説であれば部屋の中の調度がどうなっているかとか中庭にどんな花が咲いてあるかとか事細かに描写することでそれなりに精度の高い情報伝達─記憶合成処理が出来るのであるが、歌詞には激しい字数制限がある。そうそう細かいことは言っていられない。

なので、物語を語るなら大枠で語るしかないし、そうそう話を展開することも難しい。となると、なんらかの一場面における感情の表現が主軸になってくる。まぁそれがラブソングというジャンルだ。

一方、人生論を語り受け手を鼓舞するような、と書くとものものしいがつまりはそういうのはメッセージ性の強い応援歌の類で、これはヒカルには少ない。多いのはそのラブ・ソング系統の、恋愛感情の機微を描いた作品だ。

その中であってもやはり初期の作品は3コーラスの構成を明確にした作品が目につく。先週触れた『In My Room』もそうだし、3時4時と時刻が推移する『Movin' on without you』や最後に『ほんとはワケなんていらない』とタイトルごと卓袱台をひっくり返す『Give Me A Reason』、本音の吐露までの為にAメロBメロとサビで対比を構成する『Addicted To You』、最後に急にこっちを向いて『キーが高いなら下げてもいいよ』と歌いかけてくる『Wait & See ~リスク~』など、楽曲全体の構成の中でちょっとしたサプライズな仕掛けを組み込むのが主だった手法だった。こういうのを、ヒカルがいうところの「組細工」系統の歌詞だと考えたい。それが、ここから、あクマでも全体としてではあるが「香水」系統の歌詞が増えていく、ということなのではないかなと。その経緯をこれから追々見ていくこととしようかな。