無意識日記々

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慣れてるはずなのに

『For You』を最初に聴いた時、「よくこんな曲調をシングルにしたな」と思ったものだ。『タイム・リミット』と両A面シングルということで納得。ツアー前で慌ただしかったしな。

しかも、先日触れた通り、MusicSTATIONの生放送で歌ったのよねぇ。なんだろうね、確かに、『HEY!HEY!HEY!』で『In My Room』を歌ってたりもしていたけれど、そこに至るまでは『Addicted To You』〜『Wait & See 〜リスク〜』とアグレッシヴで攻めの曲調のシングルが続いていただけにここまで内省的な楽曲をお茶の間に向かって披露したのは、誤解を恐れずに言えば、それまでのテレビ出演の中で最もインパクトがあった。余りにもスタジオがテレビらしからぬ雰囲気になったのでね。ヒカルもそこらへんを察したか、後に『FINAL DISTANCE』をリリースした時はテレビ出演を一切しないという方法論を取ったのだけれど。それだけ心の内側に触れる歌だったということなのだろう。まぁこれも、『MTV Unplugged』がテレビ放送されているので、地上波で披露したことがあるといえばあるのだが。

加藤ミリヤがこの『For You』をカバーしたのを聴いた時、選曲からしてその匂いがしていたが、中身を聴いてその“宇多田ヒカルガチヲタぶり”を強く確信した。数十万枚規模の大ヒット曲とはいえ、この曲を好きだという人間は宇多田ヒカルに対して並々ならぬ感情を抱いているのではないか。『First Love』や『Flavor Of Life』や『花束を君に』が薄く広く支持を得ているのとは対照的にね。

そういう意味で『For You』はリトマス試験紙的というか踏み絵的というか……どうなんだろうね、後追いで聴いてる人はこれがテレビで歌われていたって知ってどう思うのだろう。まぁそもそもあんまりヒカル自信がテレビに出演しないし、想像自体しづらいかもわからないが。晴れやかな表舞台の、ミリオンヒット連発で歌も上手くて成績はオールストレートAで頭も良くて有名人の母親に似て美人でかわいい誰からも好かれるヒカルさん、ではない、心細くて繊細で落ち込んだり傷ついたり塞ぎ込んだり自信喪失したり我儘言ったり独り善がりだったりするヒカルさんが好きで好きで堪らない人に『For You』って響いていたんだと思うけど、あれまぁそれからもう20年が経とうとしているのねぇ。なんだか遠くまで来ている筈なのに、この感覚はあの頃とまるで変わっていない気がする。今ここまであからさまな歌が書けるかなぁ。あの頃ならではだったような、今でもやっぱり全然同じなような。不思議だわ、やっぱり。