無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

するりとするり

気がついたらApple Musicの再生回数の第1位が『誰にも言わない』になっていた。この間見た時は「そろそろ『Time』の再生回数がアルバム『初恋』や『Face My Fears』EPに追いついてきたなぁ」とか思ってたのに、それら含めて全部抜き去ってしまった。驚いたのは、本人にそんなつもりが全く無かった事だ。私ゃそんなに聴いてたのかこの曲を。

『誰にも言わない』は静かな曲だ。どこからも盛り上げようとしてこない淡々とした楽曲である。なのに平坦とか単調とかいった評価とは全く無縁。前に指摘した通り、1曲を彩るメロディーの数は過去最多とも言えるし、展開の多さやアレンジのアイデアなどそれはもう多種多彩で豊富いや豊穣とすら言える。すぅっと聴いてまた聴きたくなる。「興奮」とか「感動」とか「感涙」とか、そういう“こちらが疲れる”要素が無い。心地よい疲れなんだけどねそれも。

こちらに全く負荷が無くするりと入ってくるのに確実に心の栄養になる、まるで点滴のような楽曲だ。…打ったことない人はわかんないか。あれ、お腹減らなくなるんだよね。気がついたら満たされているという。で、心は身体と違ってキャパシティの概念があやふやだから、刺激が薄いといつまでも体内にこの曲を注入し続けてしまうんだな。それでこの再生回数か。

違う言い方をすれば、美術館でお気に入りの絵画の前で何十分もじっとしている時のような感覚にも近いか。何がどうという訳でもないのに、そこでずっとじっとしていたくなる、心は落ち着いているのに足が動かないあの感覚。あれに似た感じで、気がつけば延々リピートしている。

このまま行けば今年最も聴いた曲になることは間違い無しで、もしそうでなくなるとすればヒカルがもう1曲新曲を出した場合のみだろうなと想像する。あたし他のジャンルの音楽も沢山聴いててヒカルを聴いてる時間なんて1割にも満たない筈なんだけどねぇ。恐るべし。

で、ふと。自分で聴いていて大変満足しているのでなかなかそちらまで思いが至らなかったが、世間の反応はどんなものなのだろうこの『誰にも言わない』は。長らくCMソングとして流れていた筈だが(すいませんテレビを視聴する習慣が無いもので知らないのです)、そこまでインパクトがある訳でもないのだろうし、みんなそれこそするりと素通りしてるんじゃあるまいかライトファンや一般リスナー(そんな層在るのかな今)は。

とてもじゃないがシングル向けの楽曲とは思えないし、掴み所がないままの人も──嗚呼、そうね、『Time』を聴いて久々にあの宇多田ヒカルが帰ってきた!って興奮してた人達も、結構戸惑ったりしているのではあるまいか。そういう人はきっと『誰にも言わない』に対して積極的に発言しようとしないだろうし、「なんだかまたよくわからない曲を出してきたな」という感じなのだろうかな…。

こちらも戸惑いはある、のだ。『FINAL DISTANCE』を初めて聴いた時のような圧倒的な感動とか、『Goodbye Happiness』を初めて観た時の涙腺に来る感じとか、ああいう「ポピュラーな感動」は殆ど無いのだ。なのに、どうしても聴く度に「これはどう足掻いても過去最高傑作なんじゃないの」という結論に落ち着く。そう、落ち着くのよ。それしかない、みたいな。この、強制されてる訳でもないのに唯一の解答に自然に辿り着く感じは本当に初めてかもしれない。この曲の不可思議な魅力がどれくらいの人々に届いてるのか、興味があるな。確かめるのは全く容易ではないけれども、そろそろTwitterとかで反応を検索してみるかな。