無意識日記々

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2Y/2H

ヒカルが卓越したメロディ・メーカーなのはわかり切った事だが、さりとて常にカンタンにあの美しいメロディを生み出している訳では無い。『For You』などは歌詞がハマるまでに2年が掛かったという。天才と思わせておいて努力と執念の人でもあるんだなと感じさせる。一方、『Apple And Cinnamon』のような美しい曲を「2時間で出来た」と言い放ってしまうのだからやはり常人には真似出来ない天才なんだなともまた痛感する。

『For You』も『Apple And Cinnamon』も何れ劣らぬ美しいメロディを持った楽曲だが、やはりというべきか、時間を掛けたか掛けてないかが如実に出ている部分もまたある。

『For You』は兎に角メロディの捻りが利いている。構成自体はAメロBメロサビ&展開部というオーソドックスなものなのだが、メロディが単純な繰り返しをなかなかしない。1番の出だしは『ヘッドフォンをしてひとごみの中に隠れると』だが、2番の出だしは『起きたくない朝も君の顔のために起きるよ』だ。初めて聴いた時ここで「おおっ」と仰け反った記憶がある。そうやって1番も2番もAメロは別の経路を辿りながらしっかりとBメロで『散らかった部屋に帰ると』『勘違いしないでよ誰も』と1番2番共に同じメロディに帰着する。ホントここらへんしこたま練りこんだんだなぁと思わせる。

『For You』に関してはサビのバリエーションも豊富だ。特にラストの『優しくなれたらいいのに』『君にも同じ孤独をあげたい』『歌える歌があるなら』『誤解されたら張り裂けそうさ』の四段活用による畳み掛けは筆舌に尽くし難い。細部まで練りに練りに練り込まれまくっている。織り積み重なっていく感動である。

一方、『Apple And Cinnamon』はBメロの歌詞がずっと同じだ。ちょっとは変えろよと思うくらいに同じだ。恐らく、思いついたメロディにそのままパシッと当てはまったそのフレッシュな感覚を大切にしたかったんだろう。手抜きと謗られるも覚悟の上の潔い態度だ。もっとも、3回目の繰り返しでは冒頭に『oh...』を挟んだり、4回目の繰り返しでは『just』の音程を変えたり(毎度ここで悶絶します!最高!)と、フィーリングに基づいた変化はあるのだけど、それもどちらかというとナチュラルにそうなりましたなナマな感じが強い。出来たまんまをレコーディングした楽曲なんだと思わせる。

と、いうふうにそれぞれに練ったか練らないかでの特徴は出ているものの、やっぱり2年掛かろうが2時間で出来てようが同じく美しいメロディを持つ事には変わりない。フルオーケストラを呼んでおいてそのテイクを躊躇なく没にするヒカルさんからすれば、過程にどれだけ時間や費用がかかっていようが、結果が総てなのだ。その判断を誤らない、真の意味でのプロフェッショナルなミュージシャンなんだと思うよ。