無意識日記々

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“あなたの心を盗んでやります”

『プレイ・ボール』の歌詞を理解するには野球のルールを説明する必要があるのだが、これがまぁ難しい。サッカーなら「あの網に球蹴り入れたら得点」、バスケなら「あの網に球投げ入れたら得点」みたいにシンプルに要点を言えるのだけど、野球だと「敵陣に潜入して三箇所のチェックポイントを順番に通過して生還したら得点」といういきなり戦争じみた話になってしまう。何がわかりづらいって、球技の癖に今の説明で「球」という言葉が使われていないのだ。「プレイ・“ボール”」っていうくらいだからボールを使った競技なのだけど。ほんと変なスポーツなんだよ。

で。困ったことに『プレイ・ボール』には、野球における“盗塁”という用語を知らないとよく理解できないフレーズが出てくる。この盗塁というやつ、実は野球ではあってもなくても大して変わらないどうでもいい行為なのだ。禁止してしまっても競技としての性質は殆ど変わらない。副次的に生まれたプレイでしかなく、このスポーツを知らない人にとっては一生知る必要のない概念なのだ。

なので、説明といっても力が入らないのだけど、取り敢えずなぜ「塁を盗む」と呼ぶかだけは書いとくね。

さっきの説明で触れた“チェックポイント”のことを“塁”という。三箇所をそれぞれ一塁、二塁、三塁とよび、順番に回らなければならない。生還場所は本塁と呼ぶ。本陣、家みたいなもんだな。

で、一塁から二塁、二塁から三塁、三塁から本塁に進むためにみんなで球を打ったり捕ったり投げたり(ここでやっと球が出てくるのよ)わちゃわちゃするのが野球なんだが、その詳細はすっ飛ばす。んでこの中で「相手の目を掻い潜って」進塁する技術ってのがあって、それを盗塁と呼ぶのだった。塁をいつのまにか奪われることから「塁を盗む」で盗塁なのだが、もしかしたら「相手の目を盗む」から盗塁なのかもしれない。まーこの際どっちでもいい。

これを踏まえて漸く『プレイ・ボール』の歌詞の意味がわかる。この部分だ。

『わずかな隙見逃さぬランナーのように

 I'm stealing your heart』

ランナーとは一塁二塁三塁本塁と進塁していく人のこと、そして、英語で盗塁のことを"steal"と呼ぶのだ。「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です。」と銭形警部のように言うべきかはともかく『I'm stealing your heart/あなたのハートを盗んでやります』というのと塁を盗む盗塁とを引っ掛けてヒカルはこういう歌詞を書いたのでしたよと、まぁそんな話でありましたとさ。やれやれ。