無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

ついでのキーボード・リフ話

前回ヴァン・ヘイレンの“Jump”を20世紀で最も有名なキーボード・リフを持つ曲として紹介した。キーボード、と言ってもあんまりピアノやオルガンは想定しておらず、電子鍵盤楽器で合成音を出す感じをイメージしているので、20世紀といっても最後の30年くらいの事しか指さない。その中では、恐らく最もよく聴かれるものだろう。次点はEUROPEの“The Final Countdown”かな。

世界規模ではそれとして。ならば日本でいちばん有名なキーボード・リフってどれだろう。リフというと「しつこく主題を繰り返す」イメージなので、有名なキーボード・フレーズといっても主旋律が印象的な「ライディーン」とか「戦場のメリークリスマス」とか「Energy Flow」とかはちょっと違う……って有名だと思う曲並べてみたらこれ全部坂本龍一かよ……スゲーなあの人……。

で。そう思った時に、うん、ファンの贔屓目ですよね、しつこく繰り返すキーボード・リフとして宇多田ヒカルの『COLORS』が思い浮かぶ訳ですよ。2003年の年間売上第3位の曲で知名度も実績もばっちりで、照實さんも発売当時この曲の売りは「前奏・間奏・後奏」だと言い切っていた。非常にシンプルで、一発で覚える印象的なフレーズを持っている。

でも、この曲が真に恐ろしいのは、これだけフックのあるラインを従える歌メロが単独で強靭な事なんだよね。なんだか毎度言ってるけど。例えばそれこそヴァン・ヘイレンの“Jump”はキーボードこそインパクト抜群なものの、ことヴォーカル・ラインに関してはあってもなくてもいいような「お前それ仕事してんの?」って感じのテキトーなものだった。まぁ事実、この時のヴォーカリストだったデイヴィッド・リー・ロスが余りにもメロディが歌えないということで彼はやがて首を切られて、バンドとしてのヴァン・ヘイレンは暑苦しい熱唱派のサミー・ヘイガーを雇い入れて更なる大成功を収める訳ですが。ほんとエディ・ヴァン・ヘイレンってそこらへんの判断が凄かったんだよねぇ。デイヴも人気あったのにね。

おっとっと、話が逸れた。追悼記念ということで勘弁してね。ということで、『COLORS』はキーボードだけでも魅力的なのに歌単独でも勝負できるという訳で、あたしの中では“Jump”より遥かに感動した1曲なのだった。しかも、何が更に凄いって、それぞれ単独で聴いた時に、全然結びつかないんだよね。このキーボード・リフとヴォーカル・ラインが。どうやったら「この二つ重ねたらよくね?」って気づけたんだろう?というのが最大の疑問点であり甚く感服するポイントなのでありました。ほんと、未だに理解出来ん。

ほいでこれも昔から書いてるけど、フレーズがシンプルであればあるほど、それを人に聞かせるのは勇気が要るものなのだ。シンプルである事と、取るに足らない事は常に紙一重。それを見極められるのがソングライターとしてのいちばんのセンスなんだよね。ただのリスナーとして「これはいい!」と安穏と直感に任せられる方はその凄味になかなか気づけないんだが、自分で思いついたとしてまず、「こんなシンプルなライン、もう誰かが使ってるんじゃね?」と不安になるものだし。ホント、このリフを思いついて新婚旅行先でキーボードを購入してまでこの曲を完成させたヒカルの慧眼は素晴らしい。今でもライブの定番曲だしね。インストも歌も両方強いからライブアレンジの幅をとても広くとれるというのも重宝される理由だろう。アップテンポでもバラードでも、エレクトリックでもアコースティックでもいける。歌だけ、インストだけだとこうはいかない。“Jump”をアコースティック・ライブで聴けても嬉しくもなんともない(笑)。まぁその手の一番はエリック・クラプトンの“Layla”だけどねぇ。

ぶっちゃけ、『COLORS』を英語で歌ってたら世界的ヒットになってたんじゃないかなぁ。いつか英語版セルフカバーして世界に向けてリメイク・シングル・カットしても面白いんじゃないでしょうか。20世紀最も有名なキーボード・リフが“Jump”なら、21世紀で最も素晴らしいキーボード・リフは『COLORS』なのです。うん、言い切っときましょここは。

いやでも、『テイク5』も凄いんだよなぁ……(ぶつぶつ)……宇多田ヒカルってどこまで恐ろしいんだ……。