無意識日記々

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『Can you give me one last kiss?』

『One Last Kiss』には『Can you give me one last kiss?』という歌詞が出てくる。歌詞の世界観として、直接的にkissを取り扱ってるとみてよさそうだ。

kissについて近年のヒカルの歌詞で印象的なのは例えば『誓い』&『Don't Think Twice』の

『Kiss me once, kiss me twice.

 Kiss me three times, cross the line

などがあげられるだろうか。或いは『Time』の

『キスとその少しだけ先まで

 いったこともあったけど』

あたりか。こちらはカタカナか。

これをみると、『Kiss/キス』というものが何らかのボーダー、境界線という意味を持たせられている事が読み取れる。『Cross the line』というのはそのまま「一線を超える」という意味だろうし。

その境界線とは例えば親愛と性愛の境界線だったりもしそうだ。一度のキスなら挨拶かもしれないけれど、そこから二度三度と重なる事で意味合いが違ってくる。「キスより先」というのは、ただの友達以上の関係性に発展したという意味だろう。

このような最近の(といっても年単位だけど)ヒカルの『Kiss/キス』の使い方からすると、この『One Last Kiss』における『Can you give me one last kiss?』というのは「最後の一線を越えてみない?」という意味で使われているとみるのが自然であるように感じられる。

また、『Can you 〜?』という言い回しから長年のファンなどは即座に『Can you keep a secret?』を思い出すだろう。来月には発売二十周年を迎えるこの名曲の響きは昨年発表になったアンサーソングのタイトル『誰にも言わない?』が今もって引き継いでいる。これを踏まえるとするなら、この『誰にも言わない?』という邦訳に感じられる“共犯意識”からして、動詞としてgiveを使ってはいるものの、「一緒に最後の一線を越えよう」という“共に最後まで”の意識の強い訳し方がより適切になるかと思われる。

“共犯意識”といえば

『上目遣いで誘って共犯がいい』

の『Kiss & Cry』を思い出す向きも多かろう。今話題に出した『Can You Keep A Secret?』をフィーチャーした『Laughter In The Dark Tour 2018』での目覚ましいパフォーマンスも記憶に新しい。ここでの『Kiss』は、フィギュアスケートの語源通りに『祝福の証』としての意味が付されているが、「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビシリーズの最終回が「おめでとう」と「ありがとう」で彩られていた事を思い出すと、今回の「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」において、最後の一線を越えて作品の完結を祝福するキスを捧げよう、最後までお付き合い下さりどうもありがとう、という意図もヒカルにはあったかもしれない。やはり、ひとつのシンプルな単語に多義的な意味を付与していく方がヒカルの歌詞の読み解き方としては王道だろうね。もうはよフルコーラス聞かせろや待ってられんわぃ。