無意識日記々

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進化する忘却観

忘れる忘れないという話をする時、そもそもヒカルには『忘却』という、タイトル自体が忘れることを表している曲がある事を忘れてはならない。

そして、この『忘却』は元々インスト曲だったという事もまた思い出そう。どうやら三宅さんか沖田さんにその案は却下され歌入りに変更したようなのだが、そうやって入れられた歌詞はその殆どが千葉くん(KOHHちゃん)の手によるもので、僅かに入っているヒカルが書いた部分には言うに事欠いて

『言葉なんか忘れさせて』

という文言が登場する。件の事情を知っていればこれは「それでもインスト曲のままにしたかった恨み節」にも読めてしまうがそれはさておき、ここでは忘れることが『忘れさせて(欲しい)』という積極的に手に入れたい何かになっているのが特徴的だ。実際千葉くんパートでも

「記憶なんてゴミ箱へ捨てる」

「全部忘れたらいい」

と忘却自体を肯定的に、望むものとして描いている。もちろんそこにはやるせなさやもどかしさもあるのだろうけれども。それてまあってもやはりタイトルとなった『忘却』とは、ここでは避けるべき何かではなく手に入れるべき何かなのだ。

一方で千葉くんはこうも歌っている。

「23年前のいい思い出も

 思い出せないけど

 忘れられないこと

 汚いものでも 美しく見える」

ここでの「思い出せないけど忘れられないこと」は、前回紹介したヒカルの『言葉にならない気持ち』に於ける

『思い出せないのに

 忘れたくない夢を見てる』

と呼応する。とはいえ、その思い出が現実のものなのか夢のことなのかの違いはあるけれど。そこらへんはヒカルも周到で、『忘却』では『言葉なんか忘れさせて』に続く歌詞は

『強いお酒に こわい夢

 目を閉じたまま 踊らせて』

だ。夢を見ることと目を閉じることの関係性は『In My Room』で

『夢も現実も目を閉じれば同じ』

と歌われている通り、「自分がみているという点では夢も現実も変わらない」という哲学において語られている。忘れる事を強く望むイメージの中に強いお酒による作用やこわい夢からの逃避があるという事だろう。『忘却』という楽曲中でのヒカルの登場回数は決して多くはないのだが、その分その少ないセンテンスの一文々々が強烈だね。

こういった従来からの「忘却観」がここにきて次のアルバムに向けてより整理され他の言葉たちと関連付けられてきている、というのが現段階での状態・状況なのだと思われる。それぞれで歌われてきたテーマがより強く結び付けられるようになってきたというか。それに従い、今まではひとつひとつの曲がそれぞれのイメージを分担していた感じから最近は歌の歌詞同士が縦に繋がっているというか、ひとつ出来上がったパッケージを各方面に応用して描いてるようにもみえている。そこらへんの話からまた次回、なのかな。いやぁ、どういう予定で書き始めたんだかすっかり忘れちまったぜ。