『PINK BLOOD』の
『傷つけられても
自分のせいにしちゃう癖
カッコ悪いからヤメ』
の部分は初めて聴いた時『ヤメ』のインパクトが凄かったよね。これが英訳詞だとこうなっている。
『The habit of blaming myself
whenever I get hurt
is really uncool
So I'm calling it quits』
だいぶ尺が違う。日本語の倍くらい英語が必要。特に意味的に嵩増ししてるわけでもないのにね。とりわけ、
『からヤメ』
のたった4文字の為に
『So I'm calling it quits』
が当てられてるのが目を引く。『から』=『So』だから、『ヤメ』のたった二文字の為に『I'm calling it quits』という二十文字を費やしている。単純に十倍だ。(英語の場合、間のスペースも数えないとアンフェアなので)
でも、聴いた時の印象と照らし合わせるとこれくらい費やしていい気がする。それ程にここの『ヤメ』のインパクトは鮮烈だった。既に楽曲中でここに来るまでに何度も繰り返されたメロディなので、リスナーは『カッコ悪いから』まで来たその瞬間あと二文字しかないことを本能的に察知している。なので、あとは語尾を整える程度だろうと少し油断するのだ。『カッコ悪いからねぇ』とか『カッコ悪いからだよ』とか、その程度で済むかもと思うか思わないかのそのほんの少しだけゆるんだタイミングで放り込まれる『ヤメ』の一言は英語にすると『I'm calling it quits』に匹敵する“分厚い内容”を伴ってリスナーに突き刺さる。ホント、ヒカルはこういうの上手いんだよねぇ。
で、だ。この手法は、デビュー直後に既に用いられている。連想していた向きも多いかもしれない。2ndシングル『Movin' on without you』だ。
『時計の金が鳴る
おとぎ話みたいに
ガラスのハイヒール
見つけてもダメ』
ここの『でもダメ』の急転直下感よな。ガラスのハイヒールを見つけたらおとぎ話みたいに想いが届くのかなとか淡い期待を抱くか抱かないかのタイミングで『てもダメ』と逆接のみならぶ ず手痛い結論までをも叩き付けたここのパートは疾走感と焦燥感溢れる『Movin' on without you』の中でも最もスリリングな瞬間を与えてくれている。
でもここ、デモの段階ではこうでしたのよ?
『夜中の0時A.M.
時計の鐘が鳴る
ガラスのハイヒール
見つけないでね』
そう、実はヒカルも最初は僕らのようにややゆるんで“油断”していた訳ですよ。これに較べたら『てもダメ』が如何に急カーブを描いて抉り込んでくるかがよくわかるかと思う。『ないでね』だとサラッと通り過ぎちゃってただろうね。
(なおこのデモ・バージョンは『First Love』アルバムの15周年記念盤のいちばんゴツいデラックスエディションにのみ収録されているトラックなのでその点は重々ご注意くださいなっと。)
恐らくだけど、今回も、『PINK BLOOD』でココの『からヤメ』にしたの、『Movin' on without you』と同じように、作詞行程上、後からのことだった気がするのよね。ここでもうひとフック欲しい、とヒカルが考えて捩じ込んんできたのではなかろうか、と。その思い入れの強さが英訳詞の『I'm calling it quits』っていう字数の分厚さに表れたんじゃあ、ないですかね? そんな私の推測でしたとさ。