無意識日記々

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私の比喩が登山なのはサントリー天然水CMの影響?

つやちゃんさんインタビュー完全版での勘所のひとつが、ヒカルが『PINK BLOOD』が「不滅のあなたへ」に合うか確信が持てなかった旨を話した場面だ。こちらからすればそれは最早「笑い話」なのではと言いたくなるくらいに、完成品には全く何の違和感も無い。宇多田ヒカルらしくひとつのPop Songとしての完成度とタイアップ先への配慮が融合したいつも通りのハイクオリティな仕事ぶりだった、という感想しか出てこなかった。これのどこが「不滅のあなたへ」に合わないというのか?と。

でも、そんなものなのかもしれないな。完成品の完成度しか知らない人は、その舞台裏を想像するのは難しい。そもそも、「完成度が高い」という感想は、総てがあるべき場所に収まっていてそれ以上直しようがない状態に触れた時に述べるものだ。そこから迷いや戸惑いが読み取られるのはそもそも「完成度が低い」と言われるだけである。

だが、高い所まで行く為には、大抵が低い所から始めて段々に登っていくものだ。たまにヘリコプター使うヤツとか雲に乗れるヤツとかワープするヤツとかはいるものの、大体は麓から始めて一歩一歩あーでもないこーでもないと道に迷いながら進んでいく。

『PINK BLOOD』の場合は、「そもそも登る山を間違えてはいないか?」という不安もあったようにとれるけど、結局の所こうやって我々の目と耳に届くからには選択が正しかったのだろう。

ここから更に勘繰るなら、実はもっと失敗が事前にあったのだがそれは話すことではないと最初から話題にも上らなかったアイデアも、もしかしたらあったのかもしれない、というね。

創作のプロセスは本当に難儀で厄介なものだ。『PINK BLOOD』の場合は、曲が生まれてから、MVのコンセプトに触れる中で「これでよかった」と感じられた訳で、これはいわば登ってみたはいいものの、ここが頂上でいいのかわからなくなっていたというかなり厄介な状態だったのではないか。そこでやっと入り組んで暗い森を抜けたら視界が開けて総てが見渡せた、みたいな流れが感じられる。何をもってして完成か、からしてわからない。本当に難儀で厄介だな。

出来上がったものの完成度に「やっぱりコイツは天才だ」と言うのは容易いが、ひとたびそのプロセスを知れば他の形容を考えたくなってくる。執念の人、とか拘りマニア、とか、なんでもいいけれど、変人なまでに創作の酸いも甘いも総て味わう気にならないと、こんな仕事は出来ないのかもしれない。その一端を想像させてくれるこのインタビューは改めてよい仕事だなと思わざるを得ないですよ。