20年前の『HERO』と時とは全く違い、『君に夢中』は『最愛』の雰囲気にバッチリハマっていて非常に嬉し麗しい。ヒカルがいつもの千里眼でドラマの色調を見抜いて曲調に反映させたのだろうが、それと共に劇伴との相性が抜群である。
ヒカルの曲の納品がギリギリだった以上、劇伴音楽がヒカルの曲に合わせて作られた可能性はほぼ無い。しかし、例えば『君に夢中』が流れ出す前のピアノ曲などは、このまま同曲の前奏曲としてライブで演奏してみて欲しい程の力作だった。リアルタイムで聴いていた時も「ん?まだエンディングには早いけど、この後歌が来るんじゃないの?」と身構えさせられてそのまま『君に夢中』のピアノのイントロを迎えたし、後から聴き返してみてもやっぱり前奏曲みたいな存在感だ。非常によく出来ている。ホント、よくこんな曲作ってあったな。
こういう「運の良さ」或いは「相性の良さ」が垣間見られる時、タイアップは既に成功している。正直、序盤からの劇伴のクォリティで安心していた所がかなりあったのよ。「不滅のあなたへ」の時もそうだったが、やはり劇伴が良いとヒカルの歌が馴染み易い。ヒカルの曲だけ突出していたりしたらきっと違和感が出てしまうだろう。その点、今回のタイアップも、ヒカルの歌が流れてくる前からもう大丈夫だと思っていた。
一方で、全く違うことも考えていた。ドラマ自体もハイクォリティだが、ひとつのクリエイティブとして、このテレビドラマには手法に何の新鮮味も無い。とはいえら地上波テレビというメディアの現代における立ち位置を確認した時、特にそれは咎められるような話でもないのだが。普段自分はテレビをつけておくことがないのでここぞとばかりに合間のCMもどんなものがあるのか観てみたんだけど、こちらもさっぱり新味が無い。新しいクリエイティブがみられない。勿論そこにそんなニーズなんて無いのだからそれはそれでよく、文句を言う気にもなっていないのだが、一方で宇多田ヒカルの新曲はいつものようにサウンド自体に新味があって、いい意味で自分のサウンドを確立していない。毎度言うように、この声で歌ってしまえばそれでもう皆を納得させられるので、サウンドは色々とチャレンジングでも構わないのだ。そんななので、ヒカルのもつクリエイティブへの貪欲さと、確立されきったテレビドラマの「枯れた手法」とのビビッドネスのコントラストが結構キツイなとは感じましたわ。
と言っても、ヒカルの方も、メロディ運び自体は、この数年の傾向を踏まえて、ヒカルの癖のようなものが感じ取られる。歌詞の内容も、十八番の転生ネタを持ってきたりしていて、そういった所を取り出せば安心の宇多田印という言い方も出来るわね。一方で、徐ろにせり上がってくるシンセベースのラインは今までに無かったサウンドで、またこういうのはなりくんのインプットなのかなとは思うが、何れにせよ「また新しいことをやってきたな」とこちらを唸らせてくれた。更に楽曲後半の展開に至っては……と、ここをじっくり語りたいところだが正直ドラマの音声の裏に隠れてしまっていて今は何かを言える段階ではない。最近のヒカルの楽曲はどれも曲構成が独特で、そういう所で新味を出してくれることに非常に喜びを感じてしまう私にとってはもう今回も至福の予感バリバリなのだが、『君に夢中』の独特の曲展開、まるで音がちゃんと聞こえていないのに早くも身悶えさせられ始めてますぜ。なんだかんだで、期待に応えてくれてるなぁと。
惜しむらくは、まだ公式から音声のみの試聴音源がリリースされていないことだが、これも今週末スタートの札幌エキジビションでハイレゾショートバージョン公開が確約されている以上、Webでも今週中に聴けるようになる事が期待されている。勿体ぶらなくていいからもう今すぐアップロードして欲しい。テレビサイズを各ストリーミングでもリリースしてくれないかなぁ。うーん、焦れったいぜ。