無意識日記々

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プチ楽しみなプチプチ音

コーチェラの舞台とそれに伴うNMEのインタビューでヒカルの最初期の活動に注目が集まった流れからのラスキスのプレミア認定、そして今日から店頭アナログ盤まとめて5タイトルが並ぶという順序が、うまく「現在の宇多田ヒカル」に繋がっていってくれればなと願う。

今更だが、『ULTRA BLUE』や『HEART STATION』がレコードになるってなんか変な感じだなぁと。最初期3枚はあんまりにもCDが売れたもんだからアナログ盤発売はその勢いを引き継いだ余波としての役割があったと思うし、逆に2016年以降の『Fantome』から3枚に関しても、ストリーミングが隆盛になるにつれ「どうせフィジカルを愛でるのであればちゃっちいCDケースより豪華なアナログスリーブだよな」というノリでアナログ盤の売上が物凄く上がった時代の作品なので、こちらもアナログ盤発売の違和感は薄い。

それらの間に挟まれた2006年の『ULTRA BLUE』と2008年の『HEART STATION』については、時代背景としてCDの衰退とダウンロード販売の促進が同時に起こっている時期で、着うたが世界一ダウンロードされた(当時)『Flavor Of Life』の特大ヒットが2007年初頭、そして配信時代を牽引していくiPhoneの登場もまたこの2007年だった。フィジカルからデジタルへ、という流れの中でアナログ盤の居場所は限りなく小さかった。

勿論ファンからすればアナログ盤の所有にアルバム毎の差異はないというか、買うならお気に入りの1枚だったりコンプリートだったりなので時代背景云々を2022年の時点から眺める事に余り意味はない。だが、コーチェラの出演で「音楽シーンの中の宇多田ヒカル」という切り口で書かれた文章が幾つも出回ったこのタイミングでこの2006年と2008年の作品のアナログ盤を手にするのは、結構奇妙な感慨に囚われるのではないかなと、こちらとしては奇妙な期待をしているところだったりする。

とはいえ、そういう視点から離れて一介のファン・リスナーとして今回のリリースをみてみると、楽しみなのはその『HEART STATION』に収録されている『虹色バス』になるんですよね。この曲、効果音としてアナログレコードのスクラッチノイズが使われてるのよ。もしその箇所を再生したときに現実のリアルタイムのスクラッチノイズ─レコードの針に障害物が絡んだときのプチプチ音─が被さったりしたらきっと面白いだろうなぁと、贅沢且つ益体の無い事を考えてしまうのでした。まぁでも、そういうことなんですよ、この時代にリリースした曲にとってみれば、実際に自分がアナログ盤に収録されて鳴らされるなんて考えてなかったってことなんすわ。CDや配信だからこそスクラッチノイズが効果音になり得る訳でね。いやま、純粋なアナログ時代にもスクラッチノイズは効果音として使われてたけどね、『虹色バス』はそんなつもりじゃなかったろうから、時代の変遷の面白さを凝縮した瞬間として、今回のアナログ盤発売のハイライトのひとつになるんじゃあないでしょうか。