無意識日記々

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『大変ではなかったんですけど』

ヒカルは落合健太郎氏とのインタビューで、「『Find Love』と『キレイな人』、それから『Face My Fears』、これ、英語と日本語バージョン、あるじゃないですか、これはすごい大変だったんじゃないかなと思うんですが。」と問われてこんな風に答えている。

『大変ではなかったんですけど、その、同じメロディで、例えば楽譜にメロディを書き起こしたら、ほぼ同じメロディをなぞってる部分でも、なぜか、その言語が変わると、ノリ方が変わるっていう。あたしの歌い方が変わるのか、その、言語自体が持ってる、なんかノリが違うからだと思うんですけど。例えば母音と子音の、強調されるバランスとか、そういうのだと、そういうのが理由だと思うんですけど、こんなに違うんだぁって、っていうのが、あたし自身も発見でしたね。ま前から、日本語と英語で同じメロディに乗せても、あんまり良くない場合があって、全然違うメロディにしたこともあったんですけど、今回は敢えて、ちょっと無理があるような感じがしても、もう押し通しちゃおうって、つもりでやりました。あんまメロディ変えないで。』

https://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary/e/9f8a2557fd80ad57cbc220721a9eea93

これを最初に聴いたときちょっとビックリした。真っ先に『大変ではなかった』と言い切ったからだ。

ヒカルは常々、同じ曲で日本語歌詞と英語歌詞を書き分ける大変さを語ってきた。

キングダムハーツ2」の主題歌に関しては英語版の『Sanctuary』が先に出来ていた上で

『本当にPassionは作詞にも作曲にも苦労したなあ』

https://www.utadahikaru.jp/from-hikki/index_68.html

と述懐しているし、御存知「キングダムハーツ1」についても

『そして皆様にちょっとした手土産、「光」の英語バージョン、"Simple And Clean"です!最後の最後で私を悩ませたこの難関。ここで流せてるのは前半だけだけど、聴いてくださいましたでしょうか??コーラス部分のメロディー、「光」と違うの気になった?実はこっちがオリジナルで、英語の歌詞がどうしても「光」のメロディーに合わないから、戻したんだ。(「光」の日本語詞を書く時、どうしてもこの曲調でこのメロディーだとパッとしなくて、散々苦悩した末に現在の「光」のメロに変えて、オリジナルのメロディーラインを「嘘みたいなI Love You」という歌で復活させて自己満足していたんざんす。作曲家宇多田のやりくりがバレちったな(笑))』

https://www.utadahikaru.jp/from-hikki/index_86.html

と、あたしからみたらどこをどう解釈しても「凄く大変だったんだね」という感想しか持ち得ない苦労を重ねてきたのだ。そりゃあ、同じくキングダムハーツシリーズの主題歌である『Face My Fears』なんかも同様の苦労があったろうと問いたくなるよ。寧ろ落合氏よくヒカルのこと研究してるねと。

恐らく、20年前や17年前は、まだそういう歌詞の書き分けの難しさについての意識がリスナーに浸透していなかったのだろうかな。なので、ヒカルとしてはこれはちゃんと言わないと伝わらないと思って当時メッセで綴ったのだろう。そうした啓蒙(?)の甲斐あって、少なくとも音楽メディアや熱心なファンの間では「歌詞の書き分けって大変そうだ」という認識が共有された。その空気を読み取ってヒカルは今回「大変じゃなかった」と言ったのではないか。

あの頃から20年とかそんな月日を積み重ねてヒカルの作詞スキルも大幅に上がっている。それを踏まえると確かに昔大変だったから今もと言われたらそれはいや私も成長してますからと言いたくなる気持ちもわからなくはない。恐らくだが、日本語と英語の書き分け作業に関しては今でもそれなりの手間暇が掛かるだろうが、経験による習熟が心理的な負担を押し下げているのではないかなと私なんかは思う。

それに加えて、その次にヒカルが言っている

『今回は敢えて、ちょっと無理があるような感じがしても、もう押し通しちゃおうって、つもりでやりました。あんまメロディ変えないで』

という“新しいチャレンジ”によって日本語歌詞と英語歌詞の書き分けという作業に関して新たな認識を獲得したのも、心理的負担の軽減に大きかったかなと思われる。そこらへんの話からまた次回、かな。