『Rule(君に夢中)』の英語歌詞によって、逆輸入というのでもないけれど、日本語で歌われる『君に夢中』の歌詞の解釈を微妙に修正する事になった箇所がある。
『君に夢中』の
『Ah まるで終わらない deja vu』
の部分、私はここを
「君に夢中な“私”の状態」≒「終わらないdeja vu(=既視感)」
だと解釈していた。だけど『Rule』の英語歌詞では
『You're like a never ending deja vu』
と歌っている。
「君はまるで終わらないデシャヴだね」
ってこったね。君そのものが既視感だったのか。あんまり意味は変わらないけど私の中では微妙に違ったわ。
そもそも、「終わらない既視感」って何なのか? 既視感自体は(goo辞書によると)「一度も見たことがないのに、すでにどこかで見たことがあるように感じられること。」なのだと。これを適用すれば、
「私は君とは一度も会ったことがない筈なのに既にどこかで会っていたような気がする」
ってのが、人と人の間での既視感てことになる。これが終わらないってどういうことなの?
少し砕けた解釈をするなら、こんな感じになるかな。
人に既視感を感じるのは、例えば自分の中に眠っている「理想の恋人像」に非常に近い相手が見つかった場合などになるのかもしれない。従って、理想的な人物が目の前に現れた時に今までずっと心の中で形作られていた理想像が“想起”されて、まるで人と会った記憶の中から呼び覚まされたような感覚に陥るのではないか、そういう瞬間に人は人に既視感を感じるのではないだろうか。
そしてその「感覚」が終わらないというのは、その人をどこまで知っていっても私の理想通りで、裏切られる事がなく、その為際限なく夢中になっていってしまう状態をいうのではないか。そんな壊れ具合だから直後に『バカになるほど』と歌うんじゃないか、そう解釈をしてたんだけども。
『君』自体が「まるで既視感みたい」っていうのはそれよりもっと強い意味になる気がする。もう、私の感覚をまるごと乗っ取られてるような、そんな大胆さを感じるわ。
と、いう感じで、なかなか解釈が難しいけれど、この
『You're like a never ending deja vu』
『Ah まるで終わらないdeja vu』
のそれぞれの一節は、この曲の中で最もキーセンテンスとなる歌詞である事はほぼ間違いないかと思われる。互いに直訳になっている歌詞がここ1箇所だからね。近い意味の歌詞はあるけど、ここは言葉の響きも意味も含めてこうでなければならない場所なのだろう。
そして更に妄想を逞しくすると。もしかしてここのフレーズって、ヒカルが最初に「口をついて出た言葉」なんじゃないかなという気がしている。ふとある時に『You're like a never ending deja vu~♪』と無意識に口遊んでこの曲の制作が始まったのではないか? だからやたらと語呂はいいけど深く意味を考え始めるとよくわからないのではないだろうか。こういう、“予感”が強い取っ掛かりから創作が始まる事はよくある。浦沢直樹がInvitation対談で「まず1枚の絵が思い浮かぶ。そこに辿り着く為に物語を描く。」旨語っていた。最初に思い浮かんだ絵は、果たしてどういう意味を持つのか、描いた本人もわからない所から始まるのだ。ヒカルも、『君に夢中』を、この『You're like a never ending deja vu』から書き始めたんじゃないかと、密かに勘繰っている。だから謎めいた意味と鮮烈な響きが同居しているのではないかな。真相は夢の中、かもしれませんけどね?
なお、追伸になるが、日本語の「まるで」という副詞には「あたかも/さながら」という意味と、「すっかり/まったく」という意味と、2つの異なる意味があるので、
『まるで終わらないdeja vu』
には
「(君は)さながら“終わらない既視感”のようだ」
という解釈と
「(それは)“まったく終わらない”既視感だ」
という2つの解釈が有り得た。だが、『Rule』の『You're like a never ending deja vu』によって前者が妥当な解釈ということになった、かな。ほんに、歌詞というのは難しいわねぇ。