無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

music never ending

ここで書いた記憶がないが、私の2009年度のBest TuneはUtaDAの曲ではなかった。どの曲も甲乙つけがたく決め手に欠ける、という事もあったが、年の暮れに出たTRANSATLANTIC8年ぶりの3rdアルバム「THE WHIRLWIND〜旋風」が余りにも素晴らしくすっかりノックアウトされてしまったのだ。

Best Tuneの話なのにアルバムが素晴らしかったと述べるのは些か奇異な感じもするが、悩む必要はない。このアルバム、一曲しか入っていないのである。収録時間77分53秒で。CDの限界まで詰め込んだ疾風のような音の連なり。一応12のトラックに分かれてはいるのだが実際は一瞬も音楽は途切れない。楽想の印象全体はまるで一枚の絵画のように美しいフォルムを描く。そこまで重厚長大なのに歌メロがポップでキャッチーな為疲れずに聴き通せる。まぁ、演奏はハードでインタープレイだらけだからインストゥルメンタルが苦手な人には一切オススメしないが。

で、何故この曲は78分かというと、単純にCD一枚に入る限界の収録時間がこの程度だからだ。聴いてみるとわかるが、このアルバムの演奏は「この曲、本当にいつか終わるのか?」と不安になる位全く淀みなく音が次から次へと生み出していく。彼らからしたら、本当に演奏やめたくないんじゃなかろうか。ここまで音楽を愛せるなんて素晴らしい。

この曲を聴いていると、音が鳴らされて喜んでいるのがよくわかる。音が生まれた喜びがまた新しい音を連れてくる。この連なりはいつまでも途切れることがない。音楽が生まれる動機も理由も原因も総て音楽。純粋過ぎる音楽のユートピアがここにある。

光について私はいつも「彼女が音楽を愛している以上に音楽が彼女を愛している」と形容してきた。プロフェッショナルなアーティストとしての活動を休止したとしても、今までと変わらず光の許には新しい楽想が鳴らされたいとやってくるだろう。今までと違うのは、〆切がないことである。いついつまでに、これくらいの長さに収まるポップソングを、という縛りのない状態で光が音と戯れていると(って書くと何て幻想的なのだろう)、音楽に、楽曲に終わりを与える理由がなくなる。書いても書いてもエンディングを迎える必要はない。今日書いて、その続きを明日に書いて、明後日は更にその続きから―と延々と続ける事が可能だ。

一方で、楽想がわいてきても次に繋げてエンディングまで持っていく必要も、また、ない。たったひとつの楽想で出来ている曲というのはミニマルミュージックですら稀であろうから(0.5秒の曲とかあるけどね)、曲というのは大抵複数の楽想の組み合わせで出来ているものだが、〆切がないのだからひとつひとつを組み合わせて楽曲の体裁にする必要もないのである。

人間活動中の光の音楽の書き方はどちらになるのだろう。〆切があろうがなかろうが、いつのまにか4分間のポップソングが出来上がっているのだろうか。多分、ひとりで打ち込みをやっているとCrossoverやGentle Beastみたいな作風のインストゥルメンタルになるだろうから、前者(終わろうにも終われない)みたいになるんじゃないかと踏んでいるのだが。いつか訊いてみたいものだ。