無意識日記々

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『あなたの名を呟きかけた』

『あなたの名を呟きかけた』

ここは、メイキングで明らかになった通り、"begin to"即ち「もう呟いた」ではなく、"be going to (but not to)"即ち「呟こうとしたが結局呟かなかった」である。あなたの名を口にはしなかったのだ。

ここの心理は、どうなのだろう。歌の展開としては、虚ろに当て所無く街を彷徨う主人公が「やっぱりあなただけ」と意を強くしていく転換点となる一節であり、『Forevermore』の歌詞としては非常に重要な箇所である。

イメージとしては、2つある。いつものように思わず無意識的に名前を口にしようとしている自分に気がついて慌てて思いとどまったのか、それとも、何か意を決して名を口にしようとしたが勇気が出なかったか、或いは考えを変えた、か。

鍵となるのはその直後の一節だろう。『あなたの代わりなんて居やしない』。この歌の主人公は何らかの理由で『あなた』と別れて、もう二度と会う事のない状況にいる。その中で代わりが居ないと言い切っているのであれば、これからの主人公は「あなたの居ない人生」をひたすら生きていく覚悟を決めたという事だ。

名を呟く、というのは何なのだろう。呼ぶ、呼び掛ける。つまり相手に何かを求める事だ。ただたった今振り向いて欲しい、という願いから、深く深く愛して欲しいという希求まで。これからの人生、その望みを永遠に絶って生きていかねばならない。その決意が、『あなたの名を呟きかけ』て止めるという行為に繋がったのではないだろうか。従って私の解釈はどちらかといえば「思わず『あなた』の名を呼びそうになってしまったが自分を制して言い聞かせた」、みたいな感じになりそうだ。

もう一つの解釈は、この歌では描かれていない感情、「恐怖」に基づいた感覚だ。虚空に向かって『あなた』の名を呟いたとしても、『あなた』から返事が来る事は永遠にない。本当に呟いて何も起こらない事を確認するのは辛い、怖い、躊躇する。その為に「呟こうとして止めた」可能性も、確かに考えられる。

そう繋げると次の歌詞は、怯える自分の心を奮い立たせる為にあるのだろうか。『あなた』の不在を確認するのが怖いだなんて、もうあの人は居ないのよ、二度と会えないのよ、代わりなんて居ないのだから、と。こちらの解釈だと『あなた』は確実に死んでいる。いや断言するもんじゃないのだけれど、いつか会えるという希望が"外側から完全に"絶たれる事が、ここでは必要になるだろう。

自らの意志で「もう二度と会わない」と決意するのと、外的な要因(例えば鬼籍)によって「もう二度と会えないのだ」とわからなければならないのは、大分違う。『Forevermore』の主人公は、その揺らぐ心の中で、受け入れ難い事実を受け入れながらこれからも力強く生きていく、そういう強さを見せようとしている…

…ように思うのだけれど、本当にそうなのか。ここからもゆっくりと歌詞を見ていこう。