無意識日記々

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「アルバム・アーティスト」

少し前に2枚組アルバム「歌物語」を聴いて、「ずるいなー」と思った。西尾維新ライトノベル物語シリーズ」をスタジオシャフトがアニメ化した際に生み出されたキャラソンを詰め込んだ作品で、当然ながら原作読者やアニメ視聴者がニヤリと笑えるような歌詞がたんまり出てくる。「そういえばそんなエピソードあったなー」と頭の中でアニメを振り返りながら聴く事が出来るので、どの歌の魅力も普通よりも3割増しである。嗚呼、ずるい。

しかし、歌詞とは本来そういうものだ。どれだけ過去の文脈を共有出来ているかで価値が決まる。「マニアックな事を言えばつまらなくても許される法則」ってのがあって、その場で共有されている常識が狭ければ狭いほど、深ければ深いほど笑いのハードルは下がる。より多くの(時に偏った)常識を共有し合っている仲間同士なら、固有名詞ひとつ出すだけで笑顔が広がる。例えば今「おむつじゃないもん!おむつじゃないもん!」と書いてみよう。読者の何人かは「懐かしい!」と思わず笑顔になった筈だ。この一言自体は面白くもなんともないが、愛らしいスーパークマンたちとの思い出を共有している者同士にとっては間違いなくツボだと思う。

同様に、「物語シリーズ」を読んだ/見た人間にとって「歌物語」収録楽曲は普通に曲を聴くより遥かに魅力的に聞こえる。思い出や文脈の共有は歌の魅力を増すのである。


それはまぁコンセンサスとして。こういう作品をこそ「アルバム」と呼ぶに相応しいんじゃないか?と思ったというのが今夜の本題だ。

いつからか曲がたくさん入ったレコードの事を「アルバム」と呼ぶようになったが、我々が元々慣れ親しんでいた「アルバム」というのは「昔の写真をスクラップしてあるもの」である。

そっちの(写真の)アルバムを引っ張り出してきて1人で見る。皆で見る。「そういえばこんな事あったねぇ」と昔の思い出を振り返る。これって「歌物語」を聴きながら「物語シリーズ」本編のエピソードを思い出すのと非常によく似ている。だから私にとって「歌物語」はアルバムでありアルバムでもあった。

でも、もしかしたらこれが「本来の解釈」なんじゃなかろうか。歌を集めた「アルバム」の方も、元来は「一回シングル盤としてリリースされた曲を集めました」というものであり、であるならば、そのアルバムを聴いたら「懐かしいな〜そういやこんな曲ヒットしたよね。その時私は〜」という風に過去を振り返って楽しむのが"王道"なんでないかと。

それがいつからか曲を集めた「アルバム」の方は、寧ろシングル盤未発売の曲の方が注目を集めるようになった。アルバム発売時に。勿論「そのアルバムを買う動機」は、よく知っているヒット曲が収録されているからだが、少なくとも「オリジナル・アルバム」というのは「できればシングル曲少な目な方がお得かな」という捉えられ方をするようになっていったのである。そうして出来上がった評価が「アルバム・アーティスト」。さてここらへんからの続きはまた次回。