無意識日記々

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2012-03-23-Fri

 デニス・ロッタから連絡が入った。なんでも、Cannibal CorpseのTシャツを取り置きしておいてくれという事らしい。女の子なのによくあんな格好をして出歩けるなといつも呆れるやら感心するやらなのだが、今週のトピックは何といってもそのCannibal Corpseがビルボード初登場38位を記録した事だ。そこまで売れるようになったかと感慨深いのだが、果たしてこの効果でTシャツがバカ売れしたりなんてことにはならないのだろうか? ホクホク顔になりかけたが、Blabbermouthによるとどうやらそういう話でもないらしい。1週目の売上枚数自体は、初登場66位だった前作と変わらずに、順位だけが上がったという事のようだ。やれやれ、売上は今までと変わらず、か。でも、それがこの商売のいいところ。メタルのファンというヤツは、一度気に入ったら5年でも10年でもずっとファンで居続けてくれる。他の音楽のジャンルの流行や浮沈に左右されずに、常に一定の売上をあげてくれるのだ。勿論昨今の不況の影響は大きいが、それにしたって他と比べればマシなもんだ。来日公演だって減っていない。6月にはOBSCURAとBENEATH THE MASSACREがカップリングでやってきたりもするらしい。彼らの知名度で客ちゃんと入るのかな、ちょっと不安だ。それにしても、こいつらのTシャツなんてウチで用意してあったかな、、、


「……ふむ。この、この書き出しにあるデニス・ロッタっていうのは何者なんだろうね?」
 誠治は鼻を啜りながら訝しげに訊いてきた。細面で神経質な彼にとって、この花粉の季節は堪えるようだ。
「さあ。私にも何のことだかさっぱり。」
 君代が、興味があるんだかないんだかわからない風体で軽い返事を返してくる。
「何だろうな、どうみても、ただの日記の導入部に架空の人名を出してきただけにしか読めないんだけども。」
「確かにそうね、よくわからない横文字が沢山並んでるけど、ロック・バンドの名前ってことでいいのかしらん。」
「うーん、多分そうだろうね。こんなものを読んでみろだなんて、一体アイツはどういうつもりなんだろう。」
「さぁ、、、。」
 誠治と君代の間に揺蕩うような沈黙が落ちる。2人にとっても、こういった話題はあまり関心を唆るものでもないようだ。かといって今彼らには、他に何をする目処があるハズもない。要するに暇なのである。となれば、その“あいつ”に渡されたテキストを、更に読み進める位しかやることがないのだった。

 そういえば、今日は彼女の誕生日じゃなかったかな。そんな日に自分でTシャツの取り置きを頼んでくるだなんて、何だろう、よくある“自分へのご褒美”ってヤツなんだろうか。まぁいいさ、彼女が連絡してきたからって、すぐに取りに来るわけじゃないし、今回だってこのTシャツを彼女自身が着るつもりかどうかもわからない。何しろ、こんなデザインだからね、、、。

「やぁ、景気はどうだい?」
 ハンス・ルドルフシュテインが少し朗らかに店先に顔を出してくれる。ジャーマン・メタルの事なら彼に訊けば大抵のことは答えてくれる、、、とまではいかないが、かなりのファンだ。どうやら、全米でPrimal Fearが1月2月と絶好調だった事に、未だに気をよくしているらしい。ドイツ勢が頑張って結果を残してくれれば、ハンスは笑顔という訳だ。
「今年のヴァッケン・オープン・エアのラインナップ、どう思うよ?」
 とりあえず、当たり障りのない話題でご機嫌を伺ってみよう。
「そうだね、悪くないんじゃないかな。でもやっぱり、SCORPIONSが出演するってのは大きいね。ドイツでメタルが盛んになったのは、なんといっても彼らのお陰なんだもの。まだまだ先のことはわからないけれども、今年の夏が最後のステージになる、って可能性だって大きい。勿論、国民的バンドである彼らのことだから、フェアウェル・ツアーももっと続いていくとは思うんだけれども。」
「キミみたいな、コアなジャーマン・メタルを奉じる向きにとっても、彼らは特別な存在なんだ?」
「勿論さ! 確かに、彼らはメタルというよりハード・ロックの世代のバンドであって、音楽性に心底心酔しているというわけでもないのだけれど、ルドルフ・シェンカーのギター・リフにはいつだってエキサイトさせられるよ!」
 彼の名字にも“ルドルフ”の4文字が含まれているからか、特にこの、30年の長きに渡って続いてきたバンドをずっと率いてきたルドルフ・シェンカーの名前をつぶやいた時のハンスの瞳は、幾分か力が込められたように思えた。■