普段ロック/ポップスのコンサートに行き慣れていない人は十中八九、その音量の大きさに戸惑う。勿論、その殆どが悪い印象しかもたない。慣れてくればまぁいいかとなるのだけど、マイナスの値の絶対値が小さくなるだけで印象が悪い事には変わらない。
前にも触れたように、音量とは解像度の事だから(ダイナミック・レンジってそういう意味なんだけど、ちゃんと理解してる人の方が珍しいよね)、ロック/ポップスに携わる人にとって大音量は“いい音”なのだ。一言で言えば感覚が麻痺している。
普段はそれでいい。相手をしている客層の最大多数はロック/ポップスのライブ・コンサートに慣れた連中なのだから。
しかし、宇多田ヒカルのコンサートがそれでいいのだろうか。普段コンサートに行かないような人の割合が増えるんじゃない?
復帰後にそれがどうなっているかに興味がある。遠慮無く大音量を出すべきなのか否か。あのラウドネスが異常である事を、彼らはわかっていない。いや、わかっていても止められないのだ。
我々メタラーはその点恵まれている。音楽的な要請そのものが大迫力の大音量ななだから。MOTORHEADやMANOWARは、その大音量によってかつて「世界で最もラウドなバンド」としてギネス・ブックに登録された。ギネスに載る為にはそれなりの費用がかかる訳で、それを費やしてでも手に入れる称号は、そういった音楽を聴く人たちにとって大きなプラスなのだ。最も、流石に音量世界一を競うような項目は健康に多大な悪影響があるとしてこの項目は今やもう消滅してしまっているそうだが。
だから、アレンジにこだわるべきなのである。大音量でいきたければ、ガンガンにハードなロック・サウンドや、どんしゃり目一杯のダンス・サウンドに振り切ればいい。ストリングスを導入したりピアノで弾き語りしたりするんなら音量は極力抑えるべきだ。
確かに、クラシックのコンサートではないので聴衆が皆徹底的な集中力を発揮してピアニッシモのクレッシェンドすら聞き逃すものかと構えてくれている訳ではないので、後ろの方でお喋りが始まってしまわない程度の音量は必要かと思うが、あんなに極端でなくても、いいだろう。
WILD LIFEはかなり適切な音量だったのではないかと思っていたが、他の人に感想を聞くと必ずしもそうではなかった模様。私の耳はやはり参考にならない。だって「大音量は正義!」のメタラーだもんね。あれでも音が大きいのだから、次のツアーでは更に音量を抑えるべきなのだろう。なぁに、音が小さくったって、歌うのは宇多田ヒカルである。聞こえてさえいればその圧倒的な歌唱力で皆引き込まれていく筈だ。ギリギリまで音量は落としてもよい。初めてコンサートというもの自体に来たというような人に「コンサートっていいもんだな」と思ってもらう為に持って帰って貰うお土産は翌朝の耳鳴りではなく、美しく繊細なサウンドの思い出である。取り敢えずクラシックのコンサートに行って、音量はあれくらいで十分だと確認しておいてほしいぜ。