無意識日記々

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ke/ra/re/nai,keep/try/in/tryin

『お値段つけられない』は『おねだんつ/けられない』というメロディーの区切りになっている、というのは以前話した通り。

このうち後半の『けられない』と同じメロディーなのは『keep tryin', tryin'』で、前回の『かたおもい』と同じように『けられない(ke-ra-re-nai)』の1文字目"け/ke"とkeepは子音[k]が同じだ。2文字目の"ら/ra"に対してはtryが対応するが、この発音は[trai]であり[ra]をしっかり共有している。3文字目の"れ/re"にはin'であるが、1文字目もそうであったように[i]の音と[e]の音は他の母音たちより比較的音が近く、押韻の滑らかさを損なわない。そして4、5文字目の"ない/nai"はまとめてtryin'と連母音[ai]で韻を踏んでいる。

いや見事なものだ。しかしその前の『お値段』はもっと凄い。

この最後の大サビのパートに限っていえば、この4行目の『お値段/おねだん』は次の5〜8行目への導入部となっている。

以前、同じメロディーを共有する1行目と5行目の冒頭の単語、各々『少年/しょうねん』と『お父さん/おとうさん』が控えめに韻を踏んでいるという話をしたが、ヒカルはそれだけでは飽きたらず5行目の直前の4行目からも音韻を繋げてくるのだ。もうおわかりだろう、『おねだん』は『おとうさん』への布石として機能しているのだ。1文字目の"お[o]"を共有していて更に語尾が"だん[dan]"と"さん[san]"、即ち[an]を共有している。ここのリズムのよさは格別である。尤も、正確には『おねだんつ』である為、対応する節は1音符分ズレているのであるが、そのリズムチェンジがまた5行目以降にフレッシュな印象を与えているのだから抜かりない。いやホントすげぇ。

しかし、本来なら『おねだん』なんて単語は歌詞に使いにくい筈である。なんかかっこよくないもんね響きが。ヒカルはその点、徹底的に周到だった。本当に凄いのはここからだ。曲の最後に『お値段』が歌詞に出てきても自然に思える心理状態を、楽曲全体に幾つも伏線を張る事で作り出すのである。次回はそこら辺の話から。