無意識日記々

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「ロック」

吉井和哉の"Be My Last"は「ロック」である。言うまでもないだろう。

元々"Be My Last"はヒカルが初めてギターで作曲した曲であり、骨格からしてロックである。それを、ロックシンガーである吉井がカバーするのは極自然な成り行きだっただろう。

しかし、オリジナルの"Be My Last"と比較して最も差異を生み出しているのはドラム・サウンドである。

ヒカルによるオリジナル・バージョンのドラマーはツアーでもお馴染みのフォレスト・ロビンソンで、そのメロディーの流れと歌唱に気を配った丁寧なドラミングは同曲発売時点で私に大きな感銘を与えた。以後数年にわたって彼がヒカルのサポートを務めるのだが、彼女もやはり同様の心地よさを感じていたのだろうか。

翻って、吉井のバージョンでのドラミングはメロディーの流れよりも寧ろ独自に楽曲を引っ張っていくような力強さを感じさせる。オリジナルより目立ってテンポが速い訳でもないし、スネアのタイミングも焦りなく寧ろオリジナルと同等に溜め気味なのだが、性急に8ビートを刻むハイハットの存在感が、この殆どバラードといえる筈のスロウでメロウでメランコリックな楽曲をストロングなロック・チューンへと変貌させている。ヴォーカルやギターが結構自由に"ロック"出来ているのも、このドラミングの変化あってこそである。

しかし、このドラム・サウンドはこのミックスでよかったのだろうか。先程述べたハイハットとスネアの音量バランスと、そのスネアの音色にはどうにも釈然としないものを感じる。ドラム・サウンド全体も、どうもこぢんまりとしていて豪快さに欠け、スケール感をスポイルしている。

しかし、プロが商品として出してきたのがこれなのだからこのサウンドは意図通りのものとして話を進めよう。このドラム・サウンドが核となって、吉井らしいロック・テイストを押し出したのがこの"Be My Last"である。間奏でのメジャーコードを交えたギターソロと、終盤でのデイヴ・ギルモアかスノーウィ・ホワイトかというギターソロは本曲の聴き所で、その点ではオリジナル以上にロックのルーツに正直なカバーである。特に本作ではロック寄りの解釈が希少である為その特異性は異彩を放っている。アルバム中盤のギアチェンジとしての役割をしっかり果たしたトラックだといえそうだ。