無意識日記々

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This one is called "Hatsukoi."

『初恋』というタイトルの要点は、恐らく、『First Love』との距離感だ。「初恋か…、英語でいうと…First Love !? あぁ、そういうことか!」みたいなワンクッション置いたリアクションが期待できる。これが「距離」だと「うん、"Distance"の日本語訳かな?」みたいになってちょっと違う。その差がアルバムタイトルとしてのアイデンティティを運んできてくれるのだ。

「最初の恋」「初めての恋」などとは違う。「初恋」というワンワードなのが重要だ。二番めや三番目にない特別さが、初恋を数多ある恋のうちのひとつ以上のものに変質させる。言葉の感触としても「はつこい」というワンワードの響きが聞こえてくる。極端にいえば、「はつこい」と読む一文字の漢字が存在してもおかしくはない。

このギリギリの攻防(!?)が、『初恋』を『First Love』の二番煎じだとか七光りだとかいう批判を塗り潰す。勿論、絶大な自信がなくてはつけられない名前だし、それとともにかなりリラックスした態度でいないと受け入れられないだろう。その両方を併せ持つ自然体が宇多田ヒカルだ。

実際、既に揃っている曲だけで異様な威容である。『First Love』とはその迫力、スケール感は比べるべくもない。

しかし、それらはどれも傍流、結果論に過ぎない。幾つかの推測が立てられようが私はそのうちのひとつにベットしたい。

考えるに、まずひとつ恋の歌が出来たのだ。とても切なく美しい歌が。そこに歌詞を募らせていくにつれ、あぁ、この歌は初恋について歌った歌だな、初恋の歌だな、初恋っていう歌だな、と徐々に気持ちが高まってかたまってきたのではかろうか。じゃあタイトルは『初恋』に…いや待てよ、私は既に『First Love』という歌を書いて歌っている。それなのに…いや、それだからこそこの歌は『初恋』なのだ、そう呼ぶ他はない」と決意した。そこまで決意させた歌が出来たのだからアルバムタイトルは『初恋』だろう───そういう話の順序だったという説にベットしたい。

他にも如何様な解釈が成り立つだろう。そのどれもがもっともらしい。しかし私にとって、こう考える事がいちばんしっくりくる。『First Love』とは関係なく『初恋』であれた歌が生まれる事。その大きさに感激してそのままいちばん大きな名前になった。勿論"First Love Part2"ではない(というと冗談なように聞こえるかもしれないがヒカルは『Automatic Part2』という歌を書いた事があるからな、あんまり冗談ではないのだよ)し、"anti- First Love"でも"ex- First Love"でもないただひたすら『初恋』であり続ける歌。過去との和解どころではない強烈な包容力が名付けの理由だとみた。