もう一度最初に引用したヒカルの発言に戻ろう。vulnerable のくだりだね。
『And because it was so vulnerable, it’s probably why I was okay with changing it. Perhaps it all makes sense, though, because I can sing it the original way when I do live shows today.』
https://toneglow.substack.com/p/tone-glow-164-hikaru-utada
DeepL先生によるとこう。
「そして、とても傷つきやすい曲だったからこそ、変えても平気だったのかもしれない。でも、今のライブではオリジナル通りに歌えるから、すべて納得しているのかもしれない。」
Google先生による翻訳でも同様だったのだが、『Perhaps it all makes sense 』の部分がどうなっているか、この日本語訳ではよくわからない。「納得している」「それも当然」という言い方を当ててるからね。
しかし、ヒカルの発言全体からすれば、『vulnerable 』とこの『it all makes sense』が組み合わさって今回のインタビューで「言いたかったこと」が表現されるので、ここはより精度と解像度の高い訳し方が必要なのだ。今回はそこの話。
“It makes sense "の辞書的な意味は「意味を成す」「理に適う」だ。これは、否定文に言い換えて「無駄ではなかった」と書いた方がニュアンスが伝わり易い。
SFツアーに於ける全公演共通(確認したわけではないが、台北香港でもきっと言ってるはずという決めつけも込めて)のMCでもわかる通り、最近のヒカルは「欲して得られなかったものや失ったものは得たもの同様私を豊かにしてくれている」という事をよく言う。
こんな風に。
『25年もあれば、いろんなことみんなあったと思うけど、楽しかったことも良かったことも嫌だったことも、全部1歩ずつ同じくらい自分をここに連れてきてくれたと思ったら、悪くないないいじゃんって思えるようになって。生きてると望んだものが必ずしも自分とっていいことだとは限らないし、望まなかったことがすごく自分を成長させてくれたり、何かを失ったりしても……失ったってことは与えられてたんだなって気付かされたり、失ったものはずっと心の一部になるって知ったり、与えられなかったものも、自分をすごく豊かにしてくれたなってことも分かったし、与えることも喜びとか満たされる気持ちも分かったし。すごく私はいい25年だったなと思うから、みんなもそうだといいなと思うし、これからの25年もいい時間になるといいなと思う。とりあえず今は最高ってことで。みんな、おめでとう!』
https://tower.jp/article/news/2024/09/03/tg001
ええこと言うなぁ、、、。
こういった最近の発言をよく咀嚼した上でインタビューでの『it all makes sense 』を味わいたい。"all"なのだ。「総て」なんですよ。ここでは、『Kiss & Cry』の歌詞の変更とライブでの復活に加えて、「the darkest time for me/人生でいちばん暗かった時期」すらもその『all』に含まれている…とまで言えるかどうかは、その直前にヒカル自身も『Perhaps/たぶん』と言ってる事からもわかる通り、言い切っていいものか逡巡してしまう─それだけthe darkest timeのself-harmingは重かったということ─ところなのだが、でも結局のところ、25周年で『Kiss & Cry』を今こうしてこの形で歌えているからには「総ては無駄ではなかった」とヒカルがここで総括している事を見逃してはならない。「リストカット」のフレーズに結果的に込められたヒカルによるヒカル自身への優しさを今の視点から肯定している、というポイントを踏まえずにこのインタビューを読み過ごすのは余りに勿体無いのだわ。それを頭に入れて、今度映画館やBlu-rayで観られる『SCIENCE FICTION TOUR 2024』での『Kiss & Cry』のパフォーマンスは…きっと、私が会場で感じた通り、「とても楽しいもの」になっているだろうな。それとともに、ちょっぴりほろっとくるかもしれないね。そんな、ライブ以来の再会が、今から楽しみになってきた。このインタビューを読んで、より一層その期待が増しましたですよ。