無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

『the darkest time』


さてその『Kiss & Cry (live)』の歌詞、『娘さんのリストカット』の一節についてヒカルが初めて触れたのは、無意識日記の過去ログによると、どうやら情報系月刊誌「BARFOUT!」(バァフアウト)2007年9月号でのことらしい。


https://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary/e/88ba138a3be0c76084b93d08529fc6ff


なので持ってる方はチェックしてみて。あたしはどこにやったのやら…(遠い目)。


タイミングとしては、キスクラの配信は既に始まっていて(2007/5/31より)、CD発売の直前だった(2007/8/29リリース)。


そして、これより2年ほど前、『Be My Last』の発売(2005/9/28)に併せて開設された『Be My Last Blog』ではヒカルがこんなことを言っている。


『最近問題になってるリストカットをするのが圧倒的に男子より女子が多いのは、どこかで女のこの方が自分の体の大切さをわかってるからだよね。』

https://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary/e/624a6e50fd5210589469ceddc834684f


そのブログは既に削除されてしまっている為リンク先は無意識日記だ。コピペしてた過去の私ぐっちょぶ。


そしてその『リストカット』を歌詞に戻した『Kiss & Cry (live)』の初披露が、『Laughter In The Dark Tour 2018』の初日2018/11/6の横浜公演だったわけだ。最初に言及されてから11年以上後、か。



このように、『リストカット』を巡る流れはかなり長い物語なのよね。それを踏まえた上でインタビューを引用しよう。ヒカルが、『Kiss & Cry』のスタジオ・バージョンの歌詞を、オリジナルの『娘さんのリストカット』から、沖田英宣ディレクターの助言に従って『お兄ちゃんのインターネット』に変更したエピソードが(下記リンク先のインタビュー内で)まず語られている。それを受けてのヒカルの言葉が次。


『That was literally the only time that happened, and years later my director came to me and said, “You know, I keep thinking about that moment. I shouldn’t have had you change that line. It was so much better the way you had it.” So when I sing that song live now, I go back to those old lyrics. I didn’t take it lightly, and I didn’t explain it to anyone at the time, but right after my debut—which was the darkest time for me because of how much my environment changed—I was self-harming. That was the only time in my life I did that.』

https://toneglow.substack.com/p/tone-glow-164-hikaru-utada


ここはDeepL 先生に訳して貰おうか。一部私が手を加えた。


「そんなこと(歌詞の変更)があったのはその時だけだったんだけど、数年後沖田さんが私のところに来て、こう言ったんだ。"あの歌詞を変えるんじゃなかった。あのままの方がずっと良かった。"って。だから、今ライブでこの曲を歌うときは、昔の歌詞に戻るんだ。軽々しく言ってはいけないし、当時は誰にも説明しなかったけど、デビュー直後は、環境が変わって一番暗かった時期で、自傷行為をしていたんだ。そんなことをしたのは、人生でそのときだけだった。」


うむ、日本語で読むとやっぱりショッキングだわね。「自傷行為をしていた」という所に誤訳は無い。原文が" I was self-harming "なので直訳である。ただ、少し大袈裟に慎重を期すると、これは必ずしも「リストカット」を直接は意味しない。リストカット以外にも自傷行為と呼ばれるものは幾つもあるからだ。ただ、話の流れからして、恐らくそう解釈されるだろうことをヒカルは予期しているだろうから、そのように捉えて貰って問題はない。ヒカルは直接そうとは言っていないというだけで。


そのself-harmingと共にショッキングだったのは『right after my debut—which was the darkest time for me』即ち「デビュー直後の時期は私にとって最も暗い時期だった」という告白だ。当時をリアルタイムで知る向きとしては宇多田ヒカルの「飛ぶ鳥を落とす勢い」が鮮烈な印象として残っているだけに、その時期を指してヒカルが“the darkest time"と最上級の形容をした事にかなりの驚きを持っている。「ファンならそれくらいわかっとけよ」という話なのだが、正直自傷行為をする程までに追い詰められていたという認識はまるでなかった。後悔しきりです。


そして、その背景を踏まえた上で前述の『Be My Last Blog』でのコメントや、『Kiss & Cry』の歌詞の差し替えのエピソードを振り返ると「ヒカル自身のこと(も含めて)だったのか…」と戸惑わずにはいられない。だが、だからこそその経緯は意義のあるものだったとヒカルは振り返っている。そこらあたりの話からまた次回。