無意識日記々

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更に音韻の話を続けると。『tryin', tryin'』に結び付ける為の工夫として[ts]の音の発音がある。

『少年は い"つ"までも
 い"つ"までも かたおもい
 じょうね"つ"に じょうね"つ"に
 おねだん"つ"けられない』

この段で最も頻度高く現れる音は"つ[ts]"なのである。勿論これは意図的で、『"t"ryin'』に繋げる為のものだ。

しかも、このパートにおいて、メロディー上は"つ"の音が常に移動している事に注意。一段目は5拍目、二段目は1拍目、三段目は2拍目、四段目は4拍目である。当然これも意図的で、もし同じ拍に合わせて"つ"の音を持ってくるとtryin'に到達する頃には聴き手の耳が慣れてしまっていてインパクトが薄れる。少しずつずらしながら回り込むようにしてtryin'に辿り着くから感慨深い。ここまで狙って音節を配している事に驚きを禁じ得ない。

こういった音韻構造を構成する動機は、何といっても歌詞に『情熱』を入れたからったからなのだ。『tryin'』と『情熱』のコンビネーションから、この壮大な音韻構造が導かれるのだから。

なぜ光はこの曲に"情熱"を入れたかったか。それは、もしかしたら忘れられているかもしれないが、この曲Keep Tryin'が直前のシングル曲Passionの続編だからである。2005年12月と2006年2月というリリース順からしても、Be My Lastから続く3部作としてもその事は明白な事実だし、何より最も象徴的に、キプトラのイントロでPassionのあの「神の6音」のうち前半の3音が使われているのが大きい。その3音から繋げてあのキプトラのサビの独特なコード進行が生じるのだから。

この話は、この事実をよくよく覚えている人にとってはもって回った言い方になっているかもしれないが、キプトラの音韻構造及び楽曲構造を紐解くにあたってPassionは欠くべからざる存在だという点は強調してし過ぎる事はないのだ。何しろ、この2曲は"曲を跨いで"相互に歌詞音韻及び楽曲構造に影響を及ぼしあっているのだから。という訳で次回はこの話の続きから。