無意識日記々

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相貌の層


ヒカルさんの顔面というのは相当に不思議だ。今までの拙い私の人生経験から導き出してみるに、人の顔面てのは、年月を経るに従い大体一定の方向に少しずつ変化するものなのだ。まぁ大人になるとか老けるとかいろいろあるんだけど、何かひとつ大きな出来事があってそれ以降顔つきが変わるとか、そういうのは一生に一度とか二度とか、とにかくレアなもの…なのだと思っていたのだが。


宇多田ヒカルの顔面は、そんなこちらの“常識観”などどこ吹く風、遠慮なくごく短期間でコロコロ変わる。更に、変わり方の振り幅が尋常じゃない。前に「創作時の狐顔と人と会い始めた時の狸顔」なんて話もしたっけね。曲を作ってる時は怒りっぱなしで、人と会う時は笑顔を心がけているから、それぞれ吊り目と垂れ目になる。その振幅だけでも稀有なのに、時期によって最早違う人かというらいに作る表情が違う。というか性格からして違う。Music Talks '98の時のクソ生意気なバイリンギャルガキンチョムーブと、2003年の新婚ホヤホヤのえびす顔の間、僅か5年である。あんなん完全に別人やん。しかもその間にメイクを変えたり体重の増減やら髪型の変化やらまで加わって惑わせてくれるものだから本当に始末に負えない。


それが25年続いてきた。途中5年半ほど欠けているけど、どちらにせよその時々で顔面がバラバラなのであんまり関係がない。なかなかないそういう機会もないが、たとえ見たことのないヒカルの写真を今目の前に提示されたとしても、何歳頃のヒカルなのかわかる可能性が結構高い。加齢による漸進的な変化ではなく、その時々に独立に独特なのだ。


なので、ヒカルは基本的に、その時々にしかみられない表情を刹那々々に示してきていて、もうその頃の顔面には戻らないのだと思っていた。独立に独特な上に、どこかの時点に舞い戻るということもまたなかったからだ。


が、今回『SCIENCE FICTION』を制作しそれに関連する取材を受けたり番組に出たりする中で、ヒカルが過去の自分を振り返る機会を得た。これが結構レアで…ってそうなのよね、「初のベスト・アルバム発売」と銘打ってるんだもんね、そう、今までにないことだったのだ過去の自分を振り返るって。なので殆ど初めて聴いた&観たのですよ、「今のヒカルが昔のヒカルを真似をする」という行為を!


まずはラジオで、2000年頃の喋りを再現してみせていた。うわ、結構あの頃に似てる! 次にテレビでもあの頃の喋りを再現してみせた。うわ、びっくり! その頃の表情、今でも出来るんじゃん!


そうなのだ、顔つきが、表情筋のつき方が変わっても、ちゃんと昔の「表情の作り方」を身体が覚えているというか。まんまちゃんとなれるんだな、別の年齢のヒカルに。今41歳のヒカルが。そう、『Passion』発売時のインタビューに準えるなら、


「41歳の宇多田ヒカルの中には、31歳の宇多田ヒカルも、21歳の宇多田ヒカルも、ここに居る。」


ということなのだ。それをこうして視覚的に確認できたのが無性に嬉しくってね。人としての成長と変化、立場の変遷によって、昔のような無邪気だったり幸せいっぱいだったりという幼気な表情にはもうならないのかなと思ってたけど、今でもそういう感情と表情筋の神経はヒカルの中でしっかり健在なのだった。うむ、ぶっちゃけ、常に次の新曲が待ち遠しい我が身にとって、今回の「過去を振り返る雰囲気」を味わう中で、最も嬉しい出来事…確認作業だったかもしれない。そっか、41歳の宇多田ヒカルの中には40歳のヒカルも39歳のヒカルも38歳のヒカルも37歳のヒカルも36歳のヒカルも35歳のヒカルも34歳のヒカルも33歳のヒカルも32歳のヒカルも31歳のヒカルも30歳のヒカルも29歳のヒカルも28歳のヒカルも27歳のヒカルも26歳のヒカルも25歳のヒカルも24歳のヒカルも23歳のヒカルも22歳のヒカルも21歳のヒカルも20歳のヒカルも19歳のヒカルも18歳のヒカルも17歳のヒカルも16歳のヒカルも15歳のヒカルも14歳のヒカルも13歳のヒカルも12歳のヒカルも11歳のヒカルも10歳のヒカルも9歳のヒカルも8歳のヒカルも7歳のヒカルも6歳のヒカルも5歳のヒカルも4歳のヒカルも3歳のヒカルも2歳のヒカルも1歳のヒカルも0歳のヒカルも生まれる前のヒカルも、みんなみんなみんなみんな、ちゃんとそこに居るんだね。あー嬉しい。そして42歳以上のヒカルもまたそこに居るのだから、頼もしいなぁもう。




追伸:書きながら各年齢のヒカルがフラッシュバックしてきていちいちじぃんとしてしまった。3歳のヒカルとか、知らないけどね。