さてアイドルにもなる気がなく特定のシーンもターゲットにしないUtaDAのExodusはレコード会社のバックアップを得られなかった。別に光は喧嘩したかった訳でもないので、次作のThis Is The Oneではメインストリーム寄りのサウンドを取り入れた。これは妥協というより、単に時間のない中でトラックメイカーとしてどのスタイルの人を選ぶかという問題だった。結果StargateとTrickyが選ばれたが、こちらはある程度の規模のバックアップを受け、それに見合った成功を収めたといえるだろう。
しかし、こちらは"地道な道"である。確実なキャリアの積み上げ方を目指していた訳だからその道を継続して歩んでこそのアプローチな訳だ。今となっては知る由もないが、あのまま倒れずに活動を続けていたらどこまで進んでいたのだろう。サウンドの方向性はそのまま活動の方向性でもあったのだから、順調に"普通の"アーティストとして成長を続けていたのだろうか。
しかし、現実はそうなっていない。UtaDAとしてツアーをし、宇多田ヒカルに区切りをつけて今に至っている。今後のサウンドの志向は、UtaDAの活動が大きく影響したものになるだろう。というか、宇多田ヒカルだけ聴いていた層にとっては新しい何かが入りこんでくるよ、と云うべきか。
ヒカルの方は逆に、レコード会社からのプレッシャーは〆切位でサウンドについては自由にさせてもらってきた感が強い。寧ろヒカルの方からタイアップ相手などに自ら歩み寄る姿勢を見せていた。それが出来るのも基本的に自分のサウンドを貫いてこれたからだ。
そのヒカルのサウンドの特徴とは何か。打ち込み主体といってもテクノテクノしている訳でも、エレクトロニカな訳でもない。ダンサブルなビートも出てくるが、どちらかといえばPopsの枠組みの中で"ロック・ドラムじゃない方"を選んでいるだけ、という風にもみえる。要はPopsのリズム・セクションだという事だ。
ギタリストではないしましてやバンドでもないからギターサウンドを強調する事も少ないし、かといって鍵盤を派手に叩くような真似もしない。ちょっとかなり自由である。
かといって何の特徴もない訳でもない。三宅さんがサウンドを波に喩える一方で、ヒカルはサウンドを風景として捉えている。その2人の志向はそれぞれ三宅さんが和声的(ハーモニック)、ヒカルは対位的(ポリフォニック)である。特にヒカルのポリフォニー志向はかなりサウンドの特色を決定づけている。
最初にその志向が露わになったのがFINAL DISTANCEだった…という話からまた次回。