無意識日記々

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チーム宇多田(仮称)も25周年


Appleの新iPad の宣伝映像が炎上してるらしい。私ゃ当該映像を見ていないのでそれについての評価は出来ないが、少なくとも「ネット上でAppleが炎上した」というのは、フェイクニュースではなく事実のようで。


Appleのコンセプトから考えて「炎上商法」は有り得ないので、本気で失敗したのだろう。ここで見えてくるのは、「組織の意思決定・価値判断が機能していない」という点だろうな。


過激なアイデアが出てくる事自体は構わないと思う。何であっても口に出して言ってみないと、表現してみないとわからないことがあるからね。けれども、それを社運を賭けた新製品の宣伝に使ってきたのがいけない。そういうのって最終的には合議制で決めるものなんでしょ? 多数決という話ではなく、多数の人間による多角的な批判を通すべきだという話。つまり、現行のAppleは、価値判断の偏った人材が意思決定をしているとか、多様な意見を言い出しにくい雰囲気・社風になっているとかなのだろうかな、という印象はどうしても持ってしまう。繰り返すが、仮に公表したとしたら炎上するようなアイデアそれ自体は別に悪くはない。それを発表する場を健全に適切に決められない体制がマズいのだった。



…前置きが無駄に長くなった。『SCIENCE FICTION』の曲順の話がしたかったのだ。インタビューでのヒカルの口ぶりからするに、「最終的な曲順の決定は私の責任だけれど、素案自体は自分以外の人が出してくれた。」ということのようだ。それでこの素晴らしいランニング・オーダーが出来上がったのであれば、宇多田チームは非常に健全且つ適切に機能しているとみていいだろう。Appleとは大違いである。(前置き付きで言いたかったこと、終わり。)



自分は最初ランニング・オーダーを見たとき、「これは流れが悪くないか?」と思った。正直思った。が、いやはや、悉くリレコーディングとニューミックスにその素朴な疑問の残滓を掻っ攫われましたね。


特に、従前には「『Can You Keep A Secret?』のフェイドアウトからの『道』は、ぬるっとし過ぎじゃないか?」と懸念していたのだけど、ここで見事にやられた。まさか多重コーラスを前面に押し出してのカットアウトとはね! まぁそこから『道』のイントロが始まる瞬間のドラマティックなことといったら! 一気に劇的に変身して瞬時に白旗でした。


他にも「『光』と『Goodbye Happiness』の間に『Flavor Of Life -Ballad Version-』ってのは流れが凸凹しないか?」なんて懸念もあったのだけど、『光』のニューミックスはオリジナルよりよりたおやかで柔らかで煌びやかで穏やかなトラックになっていて、また、そのFoLBVは、前にも指摘した通りスネアサウンドを強調することで『Flavor Of Life』のオリジナル・バージョンに寄せた印象になっていたので、ここの流れがとても滑らかでスムーに構築されている。いやはやここまで絶品になっているとは、予想もつかなかったわ。GBHによる「前半の大団円」に綺麗に雪崩れ込んでいくもんね。そしてすぐさま綾鷹トラべから後半スタート! 凄いな、何度聴いても凄いなこの(2枚組に於ける)中盤の流れは。


これをヒカルが提案したかどうかは究極的には問題ではない。このオーダーを聞いて「いいね!」と告げる価値判断を下せた事が大事なのだ。それが出来るかどうか、ちゃんとやれる時間と機会があるかどうか。宇多田チームは、このような良いアイデアを気兼ねなく提案できる雰囲気を壊していないし、その価値を責任者がちゃんと見抜いて採用するプロセスも損なわれていない。とても素晴らしい。


普段のうちらの感覚からすると「そんなの当たり前じゃん」となるかもしれないが、これ冷静に考えるとホント凄いのよ。三宅さんにしろ沖田さんにしろ梶さんにしろ、年齢的にも実績的にも最早各部門の大御所さんですよ。こういった方々は、当然ながら自分の仕事に一家言持っていて、それに対する強烈な自負があるはずなのだ。なので、本来ならとっくに袂を分かっていても不思議ではない(仲が悪くなるということではなく、それぞれが独立に自分の仕事を独自にしてても自然だという話)。それが、度重なるレコード会社の身売りやレーベルごと移籍といった一家離散やむなしな出来事を幾つも幾つも潜り抜けてきて今でも、25年以上経ってもこうやって力を合わせて素晴らしい作品を作り上げているのは、本来驚嘆に値すべきことなのである。それを忘れてはいけない。


しかも、途中に沢山新しい人も入ってきてるからね。今回のサウンドの要のスティーブ(ン)・フィッツモーリスもそうだし、よくお世話になっている小森雅仁御大も、彼らからしたら元々はスタジオつきの使いっ走りの洟垂れ小僧なんですよ、えぇ(※それは言い過ぎ)。そういう新しい人や若い人たちからの意見もオープンに取り入れてやっているの、昭和生まれにはなかなかできることじゃないですよ。


もちろん、その最大の原動力が「音楽家宇多田ヒカルの求心力」なのは、言うまでもない。こんなアーティストと仕事できる機会はもう二度とない訳で(断言しましょうかねここはね)、これを逃すものかと皆必死なんじゃないでしょうか。いやそりゃヒカルと実際に会ってる時はそんな必死さは噯気(おくび:ゲップのこと…なのね、初めて知ったかも⁉︎)にも出さず、リラックスして笑い合ってるとは思いますがね。


まぁ、そういう感じなので、曲順を直接提案したのがヒカルでなくても、結局のところ、ヒカルの力あってのこの結果なので、ありました。チームが機能していれば、本人が手を下したり差し伸べたりしなくても大丈夫っていう、良い一例でございますわね。