無意識日記々

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何故か縮緬ビブラートの話まで出る

改めて念を押しておくと。あクマでこのシリーズはカバーを通してヒカルの歌唱を詳細に眺めてみようという企画である。故にせっかくカバーしてくれた相手を時に蔑ろにしているかのようにみえるかもしれない事を予め付言しておく。

さて前回は「母音の立ち上がり」について述べた。以後各フレーズを検証する際にこの論点は頻出すると思うので覚えておいて欲しい。

そして今回。もうひとつ頻出する論点について触れておこう。「長母音の変化の有無」である。つまり「あ」なら「あー」「あぁ〜〜」、「お」なら「おー」「おぉ〜〜」みたいな事だ。

槇原敬之は、この点についても非常に特徴的だ。彼の場合、こうやって母音を伸ばす場合、全くと言っていい程母音を変化させない。「みーんな〜〜」と歌う時の「〜〜」は確実に「ぁぁ」である。つまり「みーんなぁぁぁぁ」と彼は歌う。前回述べた「母音の立ち上がりの早さ」と併せると、つまり彼は母音を一度発したら次の音が来るまでひたすら一定の母音を発し続ける。従って彼の歌唱はまるで白いハンペンが棚引いているようなペタペタした印象を残す(我ながら独特な比喩だな…)。普通ならこんな歌い方をすればかなり馬鹿っぽく聞こえたりロボットっぽく聞こえる所だが彼の場合発声が非常に美しく、且つ何より歌詞が強い。言葉の意味が強い為、この噛んで含めるような丁寧な歌唱は聴き手に言葉をダイレクトに伝える大きな武器となっている。彼の場合、彼の書く詞があってこそのこの歌唱法なのだ。シンガーソングライターらしい、詞と歌の有機的な連動である。そんな彼が自分で歌詞を書いたのでもない曲を歌うカバーアルバムに挑戦したというのは非常に興味
深い。


で、だ。ヒカルはそれとは実に対照的なのである。つまり、彼女の長母音は変化しまくりなのだ。これからじっくり見ていくが、そのまま真っ直ぐ伸ばす事も勿論あれば、口を窄ませてフェイドしていくように歌ったり逆に喉を少しずつ広げていくように歌ったり。例えば「みーんな〜〜」だったらヒカルの場合「ぬぁあぅあぁあア」みたいに書かないといけなかったりする訳だ。(実際にどう歌っているかはそのパートに辿り着けた時に改めて解説しよう)

この、「長母音を細かく変化させる」技術は、ビブラートとは別の技術だ。ビブラートは"音程を小刻みに(上下に)変化させる"技術である。ヒカルの場合、この2つの技術を絡み合わせて使ったりする。彼女は、皆さんご存知あの"縮緬ビブラート"によって、非常に短い長母音の中にもビブラートをねじ込んでこれる。縮緬ビブラートというのはつまり音程の変化間隔・周期が極端に短いビブラートの事だ。これを出来るか出来ないかでヒカルの、特に10代の頃のモノマネが似るかどうかが決まってくる。田村さんはこれが非常に巧い。巧かった。どっちだろ。まぁいいや。更にヒカルはこの細かいビブラートにデクレッシェンドをかけ母音を途中で変化させたりしてくる。かなり鬼である。

一般論ばかりでは「ああそういえばそんな歌い方してたかもしれない」どまりでいまいち座りが悪い。次回からは漸く具体例を挙げながらどこがどうなっているかを見ていきたい…と思ったがそういえばヒカルの歌唱に関してはこの「長母音の小刻みな変化」と「縮緬ビブラート」に加えてもう一点先に触れておかねばならないのだった。次回は多分それについて書く。のでいつになったら2人の歌を実際に聴き比べ始められるやら…とほほ…。