無意識日記々

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需要供給の狭間に生まれる遊び心

「アイドル・アニソン・デスメタル」―本来ならここにヒップホップも混ぜたいところだが、ここは語呂を優先しよう。ミュージシャンの"遊び場の温床"となっているジャンルである。

アイドルソングの作曲は、ある面では非常に縛りが強く、ある面では非常に緩い。その人のキャラクターや声域に合った曲を提供するのは職人技が要る。一方で、ファンの方はアイドル本人のファンなので音楽性云々はそこまで気にしない。そこで、遊び心のある作曲家は、その時の米国の流行をいち早く取り入れてみたり、逆にオールディーズのエッセンスを隠し味で仕込んでみたりと様々な趣向を凝らしてくる。その気になれば、かなり実験的な試みも出来るのだ。

アニソンにも似たような面がある。主題歌に起用されれば、やれ90秒の枠に収めろだの絵に合った歌詞を入れてくれだの制約が多い。一方で、制作側さえその気になれば音楽ジャンル的には挑戦的な事も出来る。何しろ視聴者はアニメを見にきているのだから主題歌の音楽的方向性がどうのというのは副題にはなっても主題にはなりえない。従って、ジャズをやろうがパンクをやろうが基本的には自由、である。制作委員会の姿勢如何といったところか。

デスメタルはいちばん凄い。デス声と呼ばれるエクストリームなヴォーカルさえ入っていれば大体デスメタルと言われる。その為、演奏陣は何をやってもよい。ジャズ、スパニッシュ、ケルト、フォーク、ロックンロール、オーケストラ…あらゆるジャンルの音楽的要素を闇鍋的にぶっこめる。そのせいで、メタルのサブジャンルにしか過ぎないデスメタルが、他のメタル総てのサブジャンル全体のもつ音楽的多様性を上回るという逆転現象まで起きている。


上記3つに共通するのは、兎に角「仕事がある」、これに尽きる。仕事先の要求に答えれてしまえれば後は何やっても自由なのだ。言い過ぎか。いやでも、まずは曲書いてくれと言われないと、プロとしては始まらないのだ。アイドルやアニメは需要が高い。更に密度が高い。どんどんと仕事が生まれている。後はそれを利用するかどうかだ。

デスメタルもそうだ。市場としてのニーズがメタルというジャンルでは絶えないから、実験的な音楽性を標榜するにもまずデスメタルですよと断っておけば、ヴォーカルに吠えさせておけばバックの演奏は自由になれる。まず演奏する場所を確保してから、だ。

それはアイドルの場合にもある。ジャニーズは昔から高いギャランティを誇る世界でも一流のミュージシャンを連れてきてまともに歌えない少年たちのバックを務めさせてきた。仕事する場があれば、そんな事まで出来てしまうのだ。デスメタルと変わりない。


ヒカルは、そんな"言い訳"は要らない状況に生きてきている。レコード契約が、多分何枚分にも渡って結ばれているからだ。だから、音楽的な実験を試みたいのであれば、何の制約もなく、そのまま出せばよい。実績を作ってきた分、自由度が恐ろしく高い筈、なのだ。

ただ、それに伴う責任だとかリスクだとかがある。どう考えるべきなのか。売れないと発言権が弱まる。しかし、発言権の確保の為にと売る事ばかり考えていると、いつまで経っても"自由にやりたいことをやる"機会が訪れない。出来れば、その、"やりたいこと"が"売れること"だったら、総てが丸く収まるのだが、ヒカルの場合本当にそうなのだろうか? そこがいちばん悩ましいところだ。「CDたくさん売りたいですね〜」と無邪気に笑っているのが、いちばん幸せだったりするのかもしれない。こういうのも「皮肉なものだ」って言っちゃっていいのかな。わかんないや。どっちでもいいか。