無意識日記々

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道ぃ

『道』のオンエアがスタートした。聴いた。泣ける。ヒカルはこうコメントしている。

『多分みんな(「Fantome」(ファントーム)というアルバムタイトルを聞いて)暗いアルバムができるのかなー?と思ってるかもしれないから、アルバムの1曲目は明るく「元気です。行きますよー!」って感じでスタート。この曲の歌詞によって『Fantome』が完成した。歌詞的に言いたかったことが言えてるスッキリできる曲です。』

つまり、この曲の歌詞が、最も最近のヒカルの心理を反映している事になる。聴いて貰えればわかるが、もうただひたすらに悲しい。ぐっとくる。しかし勿論、表現自体は抑制が効いていて、とても切ない。我慢が切なさを生むというがまさにその通りで、こういう所が日本語の歌らしい。英語圏の人たちに、これが理解できるのだろうか。

しかも、ヒカルはこの曲を『明るい』という。私には全くそうは聞こえない。様々な先入観を排除したとしても。この曲で明るいというのなら、アルバム全編どんだけ暗いんだという事になる。

確かにアップテンポではあるのだが、それだけだ。わかりやすく、とっつきやすいという点ではテイスターとして合格点だが、これを聴いて「元気になったね」とはまだ声をかける気にはならない。最後の歌詞がこれでは、まだまだ吹っ切れてはいないなという印象。いや一生吹っ切れなくてもそれはそれで生き方なんだけれども。

トラック自体は昨今"よくある"タイプで、第一印象では特筆すべき所は無い。細かい所まで聴けば唸らされる所もあるのかもしれないが、これはリーダートラックだ。第一印象での感想が大事だろうからここにそう書き留めておく。

それよりやはり歌詞とメロディーが主体なのだろう。一番の冒頭はすぐに『海路』を想起させるし、二番の冒頭で口調が変わる部分は『This Is Love』みたいだ、というのもあり、全体的に『ULTRA BLUE』に近い。しかし、今度のBLUEぶりは真性度が桁外れだ。この抑制的なトーンがなければ、何がどうなっていた事か。

といいつつ、私としては、昨今のEDM風味と比較しても違和感のないサウンドでありながらどうしても隠し切れない80年代テイストが彼処にみられる為、なんとなく『WINGS』に近いのかなと。切なさだけでなく淋しさも感じさせるのが同曲の特徴だが、『道』にもそれがある。だからこその『Lonely but not alone』なのだろうし、それを導き出す為には「Fantome」の力を借りなければいけなかったのだから、嗚呼、うん。

キャッチーで切なくてそれなりにポップで、宇多田ヒカルに求められるであろう要素をしっかり揃えてきたという点では合格だ。だけど、笑顔になれない。まだ歌が悲しみの直中にあって、シリアスなままでしかいられない。これはエンターテインメントというよりは、切実な生きる手段である。まずは10代の、生き方に悩む若い世代に聴いて欲しい。これから生きていく長い長い道を指し示してくれてる筈だから。