無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

この『道』自体が、みちしるべ。

事前にプロモーションが殆どなかったと思われる北米であれだけ初動が動いたのは『This Is The One』をはじめとするUtada Hikaruの過去の実績とそこからくる期待の賜物だろうが、そこから先のチャート・リアクションについては、いよいよ『Fantome』の中身自体が問題になってくる。的外れな各種レビューが意味を為し直すのはここからだ。

昨今はSNSの普及により一昔前より口コミの威力がぐっと増している。映画でいえば、ネット上の好評なくして「シン・ゴジラ」や「君の名は。」の大ヒットは生まれなかったのではないか。前者については私自身もその罠に見事に引っかかったクチである。かかってよかった罠だったが。

アルバム発売から一週間。その口コミの成果もいよいよ出てくるだろう。日本国内では追い風が向かい風を追い越しているようにみえるが、北米ではどうだろうか。

残念ながら、今のところ強固なファンベースから外には波及してなさそうだ。しかし、それでも十分である。コミュニティーに入っていたって作品を購入するとは限らない。そこに一押しがあれば「話題に入れる」と購入に至るケースもあるだろう。その地道な一枚々々が大ヒットに繋がるのである。護身用にでも買わない限り、大抵は一人で一枚買うだけだろうし。


そういう状況は、しかし、北米に関して言えば非常に勿体無いとしか言いようがない。なぜかというと、『Fantome』がかなり北米にウケ易いサウンドを孕んでいるからだ。

最初は、『今回のテーマの1つは日本語』とヒカルが言うもんだから、随分と国内志向の強いアルバムになるんだろうな、ならばサウンドもきっと日本市場に違和感のないものになるんだろうな、そう思っていた。

しかし蓋を開けてみるとまずそこには『道』である。パーカッシブなギターのイントロダクションからサビの『Fu Fu Fu Fu』のコーラスが入るところなんぞまさに最近の北米チャートの上位にありがちなサウンドである。しかも、あれだけ日本語と言っていたのにサビのリフレインは『It's a lonely...』と思いっ切り英語だ。サビさえ英語なら他のパートが日本語でも北米人は結構聞いてくれるだろう。ズバリ、『道』は、今の日本ではそうではないかもしれないが、今の北米に対してはとても"チャート・フレンドリー"な曲調である。

『道』を聴いて即座に『This Is The One』を思い出したのは、そういう理由もあったのだ。同作は当時のメインストリーム・ポップのサウンドをバックにHikaruの得意な切ないメロディーを載せて送り出した北米仕様のアルバムだった。時を経て具体的なサウンドは変わったが、コンセプトはそれと同質なものだ。Hikaruがどこまで狙ってやったのかはわからないが、北米で『Fantome』のリーダートラックを選ぶなら、まずこの『道』が第一候補に上げられるだろう。

斯様な訳で、もし仮にiTunes初日のリアクションで『Fantome』に北米での注目が集まっているというのなら、運がよければ細々とロングセラーになるかもしれない。そう、アルバムの試聴に来た時に、我々もよくやるように一曲目から流してみてくれれば、だが。取り敢えず今はそんな事を期待しているところなのですよ。