さて再び『traveling』の英訳詞字幕を取り上げよう。この部分だ。
『みんな躍り出す時間だ
待ちきれず今夜
隠れてた願いがうずきます
みんな盛り上がる時間だ
どうしてだろうか
少しだけ不安が残ります』
とりあえずまずはGoogle翻訳。
『It ’s time for everyone
I can't wait tonight
The wish I was hiding
It ’s time for everyone
Why
A little anxiety remains』
えらく省略してる気がするがまぁこんなものか。ヒカルが訳すとこうなる。
『Now's the time everyone starts to dance
Unable to hold it any longer,
tonight, secret wishes are throbbing
Now's the time everyone gets excited
Makuhari Messe !
Today's the final show ! Let me hear your voice !』
この尺の違いよ。ヒカルもこのパートは丁寧に書きたかったんだろうな。
まずは『Now's the time』だ。これ自体は「さぁほにゃららの時間です」という時のお決まりの言い方なので訳自体に新味がある訳でもないのだが、ここが"It' time~"でも"It is time~"でも"Now is the time"でもなく"Now's the time"なところにヒカルのこだわりを感じる。多分だけど歌詞の『み~んな~』と尺を合わせたんじゃないだろうか。ついつい合ってしまったのかもしれない。「ナウズ・ザ・タイム」だけがメロディに巧く乗る。口遊みながら翻訳した気がしてならない。
なんだか、本当にヒカルが訳したのかと疑いたくなるくらいに愉しげだ。他の曲では感心させるような名訳が並ぶのだが、こと『traveling』に関しては珍しくというかなんというか翻訳作業に苦悩やら閃きやらというヒカルならではのものを求めていないような。あわやメロディに乗ってしまいそうな、曲に合わせた“作詞”に近い感覚を感じる。いや、全ては気分次第なのかもしれないけどね結局。
残念ながらというか何というか御覧の通りこのパートの後半はライブ仕様となっていて本来の翻訳にはなっていない訳だが、だからこそなのか、ここに至るまでの昂揚感が他の曲と較べても図抜けている。この曲の日本語詞を作詞していた時の昂揚感を思い出したのかそれともこの夜の幕張メッセでの興奮ぶりを思い出したのか(その場合はバンドメンバーに渡したものとは違う版なのかもしれんな)。或いは…やっぱり両方なんすかね。いずれにせよ訳し方からも“ライブ感”が漂ってくる、何とも小気味よい名文であるわ。