無意識日記々

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「トマトを煮込むとあっけない」

さっき自分でそう呟いて「お」と思った。こういう言い回し今まで自分でした事がなかったなと。こういうのが思いつくと嬉しくなる。思いつくというと順が逆かな。浮かんだ感触を何とか言葉にしてハマった時に自然に出た言葉が新しかった事に気づくという様相か。思いついて言う、というより言ってみたら(新しさに)気がついた、とな。いずれにせよ嬉しい事だ。

この具体的な例そのもの(今回の場合は「トマトを煮込むとあっけない」)について新しさに共感できなくとも、自分の思い当たらなかった言い回しを出力出来た時に嬉しいという気持ちは、共感されるのではないかな。

ヒカルの歌詞にもそういった、「なんか新しい言い回し」という"地味な発明or発見"は散見される。というかそんなんばっかりとも言える。並べてみると発明のレベルが違いすぎて唖然とするが。

何しろ、デビュー曲の冒頭から違う。『泣いたって何も変わらないって言われるけど誰だってそんなつもりで泣くんじゃないよね』である。"泣いたって何も変わらない"という聞き飽きた常套句に対してこうも見事に切り返した言い回しを私はこれまで知らなかった。何かを変える意図の許で泣いてるんじゃない、泣くってそういう事じゃない―あけすけに書くとこう刺々しくなる所をこうも柔らかく優しく"いいくるめられる"とは、何だろう、ヒカルってスタートからヒカル全開だったんだなと今更乍に思う。

同曲では『今の言い訳じゃ自分さえごまかせない』もすばらしい。勿論これは『明日へのずるい近道はないよ』とセット、双璧である。どちらもさりげなく新しい。初めて聴いた時のハッとした感覚は我々の人生の真なる財産だ。理系にお馴染みの言い回しで譬えれば"数学に王道なし"みたいな事を言っているのだがこれまたヒカルの個性が全開である。ずるいとか言い訳とかいったネガティヴな単語を使いながらその心の優しさがふんわりくっきりと浮かび上がることばの選び方、並べ方。当時の年齢など些事でしかないと思わせる天才ぶりである。

なお、この曲で最もキャッチーな歌詞は『雨だって雲の上へ飛び出せばAlways Blue Sky』だと思うが、この歌詞の魅力の在処は今エントリー(あ、この呼び方も新しいな私的には)で言いたがってる所とは微妙に論点がズレている。この一節がもたらすのは「言われてみればっ」という"事実に対する気づき"であり、言い回しが新しいかというとちょっと違う訳だ。別にAlways Blue Skyは「いつでも青空」でもよかった。歌詞としてはカッコ悪くなるが伝わる事実、共有される気づきは同じである。今エントリーの焦点は、何らかの感覚に対する新しいハマり方であり、それは「明日へのズルい近道」みたいな"言い方"の発明である。

今の論点を踏まえた上でもう一度冒頭の『泣いたって何も変わらないって言われるけど誰だってそんなつもりで泣くんじゃないよね』を読み直してみると…という話を始めると長くなるからまた今度。