無意識日記々

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『小さい夜が/残り香と』

引き続いては『残り香』の2番の歌詞を検討するのだが、ちょっと寄り道を。

『Fantome』収録の『荒野の狼』。このタイトルをインスパイアしたのはなりくんだとヒカルがラジオで証言している。で、そのなりくんのソロ曲『Lonely One』にはヒカルがゲスト・ヴォーカルとして参加しているのだが、その曲で彼の歌うパートにこんな歌詞が出てくる。

『僕らおおかみ

 荒野でひとり』

と。明らかにヒカルの『荒野の狼』を意識してのことだろう。何を2人でイチャイチャしとんねんという感じだが、さてまぁ寄り道はこれぐらいで。

『残り香』の2番の歌詞はこうだ。

『証明されてない物でも

 信じてみようと思ったのは

 知らない街の

 小さな夜が終わる頃』

この冒頭の『証明されていない物でも』の言い回しに戸惑った人も多かろう。ぶっちゃけちょっと変だ。そういう印象を与える事は、しかし、ある程度意図的だとみる。

先程寄り道をしたなりくんの『Lonly One』だが、今度はヒカルが歌うパートにこんな歌詞が出てくる。

『ロジックだけでは導き出せぬ数式半ば』

唐突な数学の話。これもまた面食らった人が多かったが、つまり、この頃のヒカルはこういった言い回しを好んでいたという風に受け取ってもいいのではないか。然るに、『残り香』の『証明されてない物』の“証明"もまた数学の話だと考えた方がいいのかもわからない。つまり、素性がわかるわからないというのもあるが、『真理・真実であると確信できること』が主たる動機・必要であるという事がこの『証明されてない物でも』の一節から読み取れるのだ。

とすると、朧気ながらもこの2番の主人公の性格みたいなものが見えてくる。数学の証明のように確かに正しいと認められる物しか信じない、石橋を叩いて渡るような真面目な性格の人が知らない街で思わぬ出逢いを果たした。柄にもなくときめく心。なんだろう、とてもありがちなストーリー。

ここで『小さい夜』という一節が効いてくるんだな。この短いセンテンスから何を読み取るかで『残り香』の景色が大きく変わるのだ。

例えば。知らない街が大都会だった場合、その片隅に小さな宿をとり2人で狭い部屋で過ごして朝を迎えた(夜が終わる頃)、なんていう場面を思い浮かべる人も居るだろう。

例えば。知らない街が全体として小さな界隈でしかなく、普段都会で感じている賑々しくいかがわしい猥雑な喧騒から遠く離れた静かな佇まいを「小さな夜」と表現しているのかもしれない。

どんな風に捉えてもよいと思う。それぞれの捉え方で、しかし、前回一番の歌詞で推理したように、サビの歌詞の解釈が変化していくのだ。寄り道をした分この続きは次回に持ち越しね。やれやれあーあ。