Give Me A Reason は「とても頭のよい女子が歌詞を書いた歌」だ。まぁそれは皆知っている事かもしれないが、"そのつもり"で歌詞に耳を傾けた方が、歌の言ってる事が把握し易い、という事実は理解しておいた方がいい。
法則とか運命とかいった言葉のチョイス。この感覚に基づいて"reason"を解釈するなら「世の理(ことわり)」みたいな訳し方になるよと前回(いつやねん)述べた。矛盾という言葉も、パンクスの皆が使う「釈然としない」「腑に落ちない」みたいなふわふわした不満感を指すのではなく、実に明快に「命題が並び立たない」事を指している。その点については一番のBメロの歌詞に触れながら解説したつもりだ。
そこらへんの、"頭を使ってる感じ"がよく出ているのが、二番の方のBメロだ。
『やっと見つけた答えは姿を変え私を惑わすhey
くやしいほど遠くからからかわれているみたい』
個人的な事を言わせてもらうなら、後に2002年の「幸せになろう」を聴いた時に、このGive Me A Reasonの二番のBメロの歌詞を思い出したのだ。というか、思い浮かんだ情景がほぼ同じだった。この場面である。
『その続きを知りたくて賢者を訪ねた
すると彼は言いました「教えない」』
"やっと辿り着いた答え"と"賢者"が大体同じものだわね。こうやって、さぁ答えがわかると思った瞬間にはぐらかされる感覚。とてもよくわかる。ここにあるのは「真理を、真実を知りたい」という知的欲求の顕れである。
確かに、Give Me A Reasonも幸せになろうもストレートなラブソングである。後者なんてあからさまにエロい。しかし、そのエロスは「真実という最高の美への探究」という面も持ち合わせている、と解釈するのがこの2曲に対するより奥行きのある態度だろう。
宇多田ヒカルはそういう人なのだ。ラブソングとしての体裁を整えておきながら…いや、徹頭徹尾心に響くラブソングに仕上げておきながら、「本当の所はどうなんだろう」という知的欲求も全く隠さない。いや、少し"隠れて"はいるかもしれない。しかしそれは主張が控えめなだけであって、作詞作曲にあたって導かれるべきエネルギーは、寧ろそちらから主に出ていると考えていいのかもしれない。
そんな頭のいい、頭脳派な女の子(しかも15か16の!)が歌う"reason"、"Give Me A Reason"だと思ってこの歌を聴き直すと、また新たな感慨が湧いてくるのではないかと思いますですよ私は。