無意識日記々

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ダーティー・ループス "Automatic"

そういえばダーティー・ループス(Dirty Loops)による"Automatic"のカバーの話をしていなかった。なかなかに興味深い仕上がりになっていたので取り上げてみたいと思う。

照實さんは許諾を与えた覚えはない、と呟いていたが、著作権管理団体或いは代行管理者に対して正規の手続きをとっていれば、照實さんが把握していなくてもカバー・バージョンのリリースは可能である。ただ、他者による著作物の利用は、著作権者の意向でいつでも停止が可能なのが本来の著作権法の理念であるから、ヒカルが「私の曲を使ってくれるな」と申し立てれば著作権料の支払いの有無に関わらずカバーは出来なくなる為、通常であれば著作権者に対して「今度これこれこういうカバーを出しますんで宜しくお願いします」とお伺いを立てておいた方が後々波風が立たなくてよい。そういう話であるから、照實さんが「まぁいいかな」と黙認してくれるならそれで何の問題もない。

まぁそんな法律の話はいい。日本でしか通用しないかもだしな。音楽の話に移ろう。

ダーティー・ループスについて私はよく知らない。北欧のグループで、何やらエリートな音楽学校出身の三人組とか読んだ気がするがよくわからない。何故Automaticをカバーする事になったかも全然知らない。どうやら日本盤ボーナストラックらしいから、日本の担当者が何曲かJ-pop曲を提示してその中から彼らが気に入ったのを選んでアレンジした、という感じではないか。

という推理をするのも、彼らのアレンジがえらく大胆で"思い入れがない"ように思えるからだ。昔からJ-popが好きで宇多田ヒカルは神様で…という人がここまで改変するだろうかという程曲調が違う。

基本路線は日本でいうところのジャズ/フュージョンだ。どの楽曲が、ではなく「イメージとしてのT-SQUAREみたいなサウンド」とでも書いたらわかるかもしれない(仙波師匠が一時期腰掛けていたグループで…とか書いても余計にわからんか)。あれだほら、一昔前のスポーツニュースなんかで流れるBGM風とでもいえばいいかな。

彼らの手にかかれば、あの哀愁のイントロダクションも軽快なニュースの導入部分みたいになってしまう。跳ね回るチョッパー・ベースにライト・タッチで手数の多いシャープなドラミング、そして時代性やジャンルにとらわれない、玩具箱をひっくり返したようなカラフルなシンセ・サウンド。80年代フュージョン風のコードやらファミコン風の(エイト・ビートならぬ)エイト・ビット・サウンドまで飛び出す。やりたい放題である。

そして、その随分とアップテンポなサウンドの中で歌っているのがボーイズ・グループのヴォーカルみたいな爽やかな青年の声。オリジナルのあのねっとりとした歌唱なぞどこ吹く風に軽快にメロディーラインを追ってゆく。一部、本来とは異なるコードに変えている所すらある。

そんな中で、これがいちばん特徴的だなと思ったのが、頑なにサビの最後の『It's Automati〜c♪』を歌わないところである。そういえば、とはたと膝を打った。最初に(15年前に)私がオートマを聴いた時「随分変な構成だな〜」と思ったのだ。サビの最初と最後が同じフレーズだなんてな。他にこのパターンの歌って全然思い出せないのだが、彼らも「なんか変だ」と思ったのかもしれない。サビの終わりのコードを変えメロディーを変え、意地でも『It's Automati〜c♪』に着地させない。確かに、こっちの方が普通の構成である。アタマ側のリフレインは、アタマ側のままで終わらせないとな。

或いは、この軽快洒脱なサウンドには、『It's Automati〜c♪』で終わる事で生まれる浪花節的にセンチメンタルな余韻が邪魔だったかもしれない。『It's Automati〜c♪』からイントロダクションのあの哀愁のフレーズに戻った瞬間に日本酒を一杯飲みながら「くぅ〜っ、たまらんねぇ」と呟くのが日本人のスピリットであるからして、なるほどこのカバーの方向性には余計かもわからんな。

それにしても驚くのは、これだけオリジナルのもつ演歌的浪花節的哀感をスポイルしておきながら、それでもこのメロディーラインがキャッチーに美しく響いてくる事だ。日本人にウケやすい、という触れ込みでダブルミリオンを獲得したこの名曲、こんな風に全く別の姿に変化させても曲の持つ“ヒット・ポテンシャル”みたいなものは変わらない。要は、幹となる魅力は超普遍的で、それを和風に解釈したから日本でヒットしただけなんだなこの曲は。将来どこぞの有名歌手がオートマをカバーするとして、多分いつでもどこでもヒットするんだと思う。要はそれをどう"食べやすく"アレンジするかが問題なのだ。嗚呼、勉強になったわ。