無意識日記々

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『Forevermore』を聴いてきた。

土曜日にソニーストアに行って『Forevermore』を聴いてきた。ちっとだけ複雑な気分。

悲しげなストリングスから壊れたイヤホンのくだりを聴いて「Prisoner Of Love meets For You」という形容には早くも合点がいったが、個人的な予想であった「王道のラブ・バラード」とは必ずしも言えない曲調であった。

ここ最近、「大人向けの日本語ポップスの新曲を聴きたいな」という気分でいた自分にはドンピシャの曲調で心の中で「うひょー!」と叫んでいたがソニーストアでは自重した。小綺麗なフロアに小綺麗なお姉ちゃんが佇んでいるので流石に場違い。しかし「俺の今の気分的ニーズにここまで応えてくれるとは!」と小躍りしたい気分になったのは事実である。

先述したイントロからのストリングスの使い方はここ15年位の日本語ポップスの定番である「弦沢山入れときゃ何とかなるだろ」路線とは一線を画す『Prisoner Of Love』同様「ひとつの弦楽器の音色に即したメロディー」で迫ってくる。このままバラードとして推移していくかと思いきやBメロ近辺から「基本的にはジャズが好きなんですけどセッションとしてポップスやロックも山ほど演奏してきました」というリズムセクションが控えめながらもかなりアグレッシブに盛り立てくる。歌メロだけならバラードと呼んで差し支えないが、このバックの演奏のテクニシャンぶり、ジャズの素養がありながらポップスに落とし込んでくる感覚は、最終的な音楽スタイルに差異はあれどピーターガブリエルやスティングといった「ジャンルの狭間から大ヒット曲を生み出してきた連中」のそれに近いものを感じる。まさに私が最近求めていた「大人の為のポップスの新曲」である。

一方で、だからこそ不安も増したのだ。ここまでシックで、洗練されていて、しかし日本文学みたいな怨念感すら感じさせる歌が乗った曲、今の日本の邦楽市場でウケるのだろうか? TBSの日曜劇場に採用された曲という事で対象年齢はかなり高めだが、その視聴者たちは配信音源を買う習慣があるのだろうか?

ちと複雑なのは、そういった理由からだ。個人的ニーズは満たしてくれるので私個人は大変楽しんでこの曲を聴けるだろうけれど、「宇多田ヒカルには大ヒット曲を歌って貰いたい」という身も蓋もない"世間様のご要望"に果たして『Forevermore』は応えられるのか? 寧ろドラマが空気になってくれたら気楽なんだが。複雑な気分です。