無意識日記々

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この「余裕」は虚しくないぞ

『まだ続く僕たちの歴史のほんの注釈』の『ほんの』が、とてもいい。

『Play A Love Song』はアップテンポの曲で、前へ前へと進む力強さが印象的な曲だが、その特徴は「余裕」とか「広がり」といったスケール感だ。前作のオープニングナンバーだった『道』は切迫感をメインにしてそこに遊び心を覗かせる、という作風だったが、『Play A Love Song』ではそこから更に進んで、懐の深さとか心の広さとか、そういった風合いを強く感じさせている。

『道』では、『It's a lonely,』を何度もリフレインして押し込んできたあと茶目っ気たっぷりに低音で『...road.』と呟く(一応タイトルコールだ)のがハイライトだったが、『Play A Love Song』ではやはりこの『ほんの』がまずひとつ挙げられるだろう。ここの溜め具合の中ですっと先んじて『ほんの』を挿入してくる感覚、作り手がリスナーの心の動きを把握している証左だろう。

ここの部分で聴き手側は『まだ続く僕たちの歴史の』の次に来る文句はリズムに合わせて『注釈』のところに着地するだろうと無意識に予想する。この『歴史の』と『注釈』の間の"溜め"の部分に『ほんの』がすっと入ってくる快感よ。リズムとしても発音としても意味としてもハマりにハマった会心の一節である。理詰めで仕組まれていながら生理的快感にまで上り詰めるこの手練手管よ。

"溜め"といえばこの曲にはもうひとつハイライトがあったな。3回目の『Don't let go.』である。それまでは『Hold me tight and don't let go』はまるごと一息で歌われていたのだが、『そばにおいでよ/どこにも行かないでよ』に続く一文は『Hold me tight and don't let.... don't let....... go.』と"don't let"を繰り返した挙げ句溜めに溜めて『...go.』の一言を吐き出す。呟く。いや、漏れいでるとか絞り出すとか色んな見方・言い方があるけれどこの演出で兎に角『go』の一語に万感の思いが込められるのである。いやはや、参った。

更にこの『...go.』、それまで『go〜〜↑』と音程が舞い上がっていってたのが『...go↓』と短く切って落としているのだ。これが非常に効果的。例えばヒカルの歌の展開部は『Flavor Of Life』の『素直に喜びたいよ』とか『traveling』の『隠れてた願いが』のように、それまでの流れを引き継ぎつつもチラッとポロッと"本音が出る"パートになっていて、それはこの『Play A Love Song』でも同様なのだが、この歌が秀逸なのはその「本音の漏れ具合」をそこまで何度か登場していたのと全く同じ歌詞を使って、歌い方とメロディー使いに差をつけて表現している点なのだ。展開部といえば新しいメロディーに新しい歌詞、時には新しいコード進行まで登場させる所なのだが『Play A Love Song』は逆説的にも"新しくない歌詞"で印象的な場面を演出している。つまり、制作者が力んでいないのだ。何が必要なのか見極めて最小限の変化で最大限の効果を作り出した。この自らの力量に対する信頼、自信が作品全体に「
余裕」や「スケール感」を生んでいる。表現したいものに対してまるで焦っていない。がっついていない。ヒカルは未々成長途上なんだと強く実感したよ。