無意識日記々

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解毒剤混入版に毒を吐く夏の夜

もうそろそろ8月も終わりだというのにまだまだ茹だるような暑さだねぇ。残暑もここまで続くと体力が続かなくなってくるわ。やれやれ。

この時期の宇多田ヒカルファンの定番曲といえば『夏も終わりの気配漂う八月末』ってことで『プレイ・ボール』が代表的なのだが、個人的にはこの時期になるとついつい聴きたい曲が他にあるんだ。それは『Flavor Of Life - Antidote Mix -』です。

CDシングルにボーナストラックとして収められたという世にも奇妙なトラックだが(その為、このトラックにはオリジナル・バージョンやバラード・バージョンと異なりカラオケが存在しない)、そのサウンドもまた奇妙極まりない。

何がどう奇妙って、兎に角どこを切っても音作りが暑苦しいのだ。『Flavor Of Life』といえば『降り積もる雪の白さをもっと素直に喜びたいよ』という真冬のスタンダード・ナンバーだというのに。どうしてこうなった。

まず、イントロからして暑苦しい。気温が高くなり過ぎてくると大気の層が揺らめいて見えてくるが、まさにその湯気のような感じをサウンドにしたアレンジから入ってくる。温度38℃湿度90%みたいな音作り。

更に歌に入るとAメロからスクラッチノイズっぽい効果音が鳴り続けるのだがこれが本当に暑苦しい。ジリジリジリジリジリジリジリジリ……まるで「焼け付くような暑さ」という日本語の表現をそのままサウンドにしたような。いやもうこれを聴いてるだけで暑さ倍増なのですよ。

そしてサビに入ると左チャンネルから不安定な音程のシンセがゆらゆらと揺らめいて入ってくる。もうそれ完全に蜃気楼をイメージしてるよね。大気の層が分離して屈折した像をみせるというあの……どんだけ暑いねん砂漠かここは。

で。砂漠のイメージが出てきたらドラムのスネアサウンドまで気になってくる。クラップを重ねたような独特の音色なんだがもうまるで砂漠で砂を踏みつけて歩いてる音なんじゃないかと。ハイハットシンバルなんて今や砂粒が当たる音に聞こえてくるよ。

しかし。間奏で雰囲気が一変するのですよ。左右に吹き抜けるうら寒い風の音。やっぱり歌詞が『降り積もる雪の白さをもっと』だもんね、ここは流石に冬っぽくするよね───と安堵と共に思おうとしたんだが、、、ここでヒカルの歌声にレコーディング・エフェクトを掛けてきやがるのだこのリミックスは。これがまぁ効果覿面でさ、「これは今歌っているのではありません、記憶の彼方にあるような、録音された昔の歌声なんです」とリスナーに思わせてくるんですよ。そうなると寒々しいハズの北風の吹き抜ける音も「今ここにないもの」扱いになってしまい「余りの暑さに気が狂いそうになって、必死に冬に吹く北風の冷たさを脳内で思い出して暑さを紛らわせようしている」かわいそうなシチュエーションが完成する。結局、暑い。真冬の曲のはずなのに、暑い。

このように始まりから終わりまで終始暑くて暑くて暑苦しいサウンドを展開する『Flavor Of Life - Antidote Mix -』は酷暑にうんざりし切ったこの八月末のぐだった心境に更に追い打ちをかけてくれる見事なリミックスに仕上がっている。夏の暑さに負けそうになっている人は是非懐かしいこのミックスをエンドレスでリピートし続けて今年の夏の暑さに素直に白旗を上げることにしましょうぞ。こんな暑さに勝てるわけないだろっ!(笑)