無意識日記々

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EP盤の『初恋』はなぜシンプルに『初恋』なのか?

そういえば触れていなかったが、配信の方の『初恋』は表記が『初恋(Remastering 2022)』となっている一方、7インチアナログ盤の方は単に『初恋』というシンプルな表記となっており、リマスタリングのクレジットが無い。ならばこれは2018年のバージョン?と思いがちだがそうとは限らない。ここ、ちょっと紛らわしいのよね。

そもそも歴史的には「マスタリング(Mastering)」と呼ばれる作業は、「音源を最終的な媒体に落とし込む事」を指していたのだ。ミュージシャンとミキシング・エンジニアが精魂込めて作り上げたマスターテープの音源を、アナログ・レコードやカセット・テープやコンパクト・ディスクといった「我々リスナーが実際に接する媒体」に記録&大量生産できるようにする作業を指していた。

故に、1980年代後半にコンパクト・ディスクがレコードやカセットにとって変わって以降、アナログ時代の旧譜の再発は「デジタル・リマスタリング」を施されて世に出るようになっていた。更にその後にインターネット配信の時代になるとアナログ時代の音源もコンパクト・ディスク時代の音源も共に電送用圧縮音源として提供されていくのだが、この時のファイル変換もまたマスタリングと呼ばれるようになった。我々も2008年(『HEART STATION』がリリースされた年だね)以降「Mastered for iTunes」のお世話になった。これは「iTunes Store配信用に独自にマスタリングされた音源ファイル」という意味だったのよね。

従って、元の音源をアナログ・レコード/カセット・テープ/コンパクト・ディスク/ネット・ファイル等々に落とし込む時、それぞれが別々のマスタリング作業を施される事と相成る訳だ。つまり、今回のアナログ・レコードに収録された『初恋』は、この7インチ盤の為に独自にマスタリングされた音源になるので、配信用にリマスタリングされた『初恋(2022 Remastering)』とはそもそも別扱いになるんだよ。ややこしいよねぇここ。

更に頭がこんぐらがるのが、もう1曲の『First Love (2022 Mix)』の方は、アナログ盤でも『First Love (2022 Mix)』という表記になっているとこだよね。こちらはリマスタリングではなく“リミックス”、即ち出来上がったマスターテープを各媒体に落とし込むマスタリングよりも前の作業、「そもそものマスターテープの音源を制作する」作業にあたる「ミックス(ミキシング)」を再びやり直したものだ。この時、オリジナルの音源では使われなかったパートを復活させて収録させる事も可能になる。皆さんもビックリしただろうイントロの『Oh Yeah』を足せたのはリミックス作業を施したからであり、リマスタリングではこういうことは出来ないのだった。

今回の7インチアナログ盤に収録されている『First Love』にはちゃんとイントロの『Oh Yeah』が入っている。故にこの音源も配信版の『First Love (2022 Mix)』と同じ『First Love (2022 Mix)』という名称表記になっている訳である。

…てことはしかし、同じミックスでも前者は配信用のマスタリングが施されていて、後者にはアナログ盤用のマスタリングが施されているんだから仮にマスタリングの表記を付け加えるとするなら前者は『First Love (2022 Mix) (Mastered for iTunes and Apple Music)』、後者は『First Love (2022 Mix) (Mastered for analogue vynil pressing)』という風に…

…っ て 、 や や こ し く て た ま らん わ ! ! !

…と、リスナー側が怒り心頭に発してしまうので(笑)、アナログ盤の『初恋』はシンプルに『初恋』になっているのでした。まる。