無意識日記々

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君と近接、貴方は彼方

ではまず基本中の基本をお浚いしておこう。

1stアルバムのAutomatic、Movin' On Without You、First Loveの3曲は、"失恋3部作"として有名である。この3曲で、恋をする相手への呼称はどう変化するか。

Automaticでは、『七回目のベルで受話器を取った君』と曲が始まり、歌の主役が誰なのかを冒頭で宣言する。更にブリッジで『君に会うと…』『君に会えない…』と畳み掛ける。"君"の事で頭が一杯の歌の歌である。電話やスクリーンや指輪といった小道具も、"君"の体温を伝える媒体として淡く、叙情的に描かれている。"君"というワードが、歌の焦点を恋する相手に見事に定めている。

ところが、続くムビノンで様子は一変する。この歌では、Only You Can Stop MeのYou以外、日本語では相手を呼ぶ呼称が一切出てこない。その代わり、オートマでは一度も出てこなかった"私"が何度も登場する。私の心返して、わかって欲しいのに、と既に主役は私、"君"にはもう焦点が当たっておらず、せいぜいこんな思い出ばかりの"二人"じゃないのに、と客観的に眺める位である。

そしてFirst Loveで"君"は"あなた"に変化する。こそあど言葉で"あ"の段は話し手と聞き手の記憶の共有を意味すると共に、対象への距離感ができた事も示唆している。これは彼女が"あなた"へ歌いかけながらその距離を慈しむ歌でもある。あれだけAutomaticで近くで触れ合っていた"君"が遠くの"あなた"になってしまう、切ない3部作である。


ここまでは、教科書通りの"君"、"あなた"、"私"の使い方である。ここからどんな応用があるか、どんな展開が待っているか、じっくり眺めていこうと思う。時間はたっぷりあるしね。